いわき語り部の会(いわき市)は、東日本大震災の被害の悲惨さや記憶を伝えようと、語り部の実体験や当時の被害映像を伝える動画を作成した。会長の大谷慶一さん(73)は「生の声で悲惨な現実を知ってもらわなければ犠牲はなくならない」と語る。動画は、いわき震災伝承みらい館での講話の際や小中学生の震災教育で活用される。
同会は、みらい館で定期的に震災について講話しており、年々聴講者が増えるなど震災伝承の需要が高まっているという。復興に伴う景観の変化で記憶の風化も懸念されており、後世に引き継ぐ手段の一つとして県の補助金を受けて動画を作った。
動画は「未来につなぐ記憶のバトン」。大谷さんら会の語り部8人が登場し、津波の映像や命の危険を感じながら逃げた当時の体験などを23分45秒の映像で紹介、「自分の命は自分でしか守れない」と訴えている。
地元の豊間中生の震災に対するメッセージも収録している。大谷さんは語り手が少なくなっていくことを危惧しており、「長く伝えていくには子どもたちにどう伝えるか。その手段として動画を活用したい」と話す。
大谷さんと副会長の石川弘子さん(63)、幹事の小野陽洋さん(31)は市役所に内田広之市長を訪ね、動画の完成を報告するとともに教育現場での活用を要望した。
市は本年度、中学生を対象に行うみらい館での体験学習に動画を使用するほか、市内の小中学校や県外団体への配布、インターネット公開も検討するという。