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【環境考察/農業新時代】温州ミカン、伊達で挑戦 変化する「栽培適地」

08/31 10:00

ミカン作りに挑戦する佐藤さん。少しずつ収穫量は増えている=8月、伊達市

 地球温暖化の影響で農作物の「栽培適地」が変化する中、関東以西の暖地で作られている温州ミカンに県内の農家が挑戦する動きが出ている。

 ■温暖化念頭に試作

 8月、伊達市霊山町の山の斜面に緑の丸い果実がなっていた。「これはミカンだよ。オレンジに色づくのは10月くらいかな」。生産者の佐藤孝一(69)は説明する。

 長年にわたってあんぽ柿などを育てる佐藤は、2019年にJAふくしま未来から苗木の提供を受け、ミカンを育て始めた。温暖化を念頭にした試作栽培で「ここ(伊達市)でもミカンができればいいねという感じで始まった。育てたことがないから、どうやって育てていいか分からなかったけど」と苦労を語る。

 佐藤が気にしたのが寒さだ。「冬は氷点下になることもある。そこは心配だった」。地面にわらを敷くなど、保温に気を付けたという。初めの1、2年はあまり実がならず、なっても「酸っぱくて甘くはなかった」。だが少しずつ収穫量が増え、昨年は200個近く実がなった。「市販のミカンと遜色ないくらいの味だった」と笑顔を見せる。

 収穫量などの課題もあり、流通はしていない。「ミカンができるという証明をして、ほかの人が挑戦するようになればいいね」と佐藤は見据える。

 ミカンは関東から九州の太平洋側を中心に作られ、県内では広野町での栽培が知られている。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県)によると、栽培目安は年間の平均気温が15~18度。それより低いとミカンの枝が枯れる可能性があり、高いと着色の遅れなどが発生する恐れがある。ほかにも、標高が高く最低気温が極端に下がりにくい斜面温暖帯でも栽培されており、筑波山(茨城県)でミカンが栽培されているのは、それが要因という。

 ■農業本来の姿 

 気温が関係するミカン栽培。近年は温暖化の影響もあり、関東の内陸部や新潟県などでも作られ始めている。本県がまとめた気候変動影響予測によると、条件付きではあるものの、将来的にいわきが栽培適地に変わる可能性があり、会津も適地に変化することが考えられる。

 農研機構で果樹の温暖化対応を研究する杉浦俊彦(60)は「農業は適地適作が基本。気候が変化すれば、作るものが変わるのが農業本来の姿」と指摘。ミカンの国内生産量が減少傾向にあることも踏まえ「温暖化によって栽培が難しくなるものを無理して作り続けるより、新しいものにチャレンジしてもらいたい。新しい産地ができることは日本全体にとってもいいことだ」と後押しする。(文中敬称略)

 ◇

 温州ミカン 日本の代表的なかんきつ類。暖かい気候を好み、関東以西の太平洋沿岸で栽培され、和歌山や愛媛、静岡県などが代表的な産地。国内の生産量は1970年代から減少傾向となり、2022年は68万2200トンだった。

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