ミュージシャンの佐野元春が20日、都内の映画館で行われた映画『大いなる不在』(公開中)のトークイベントに登壇。自身の楽曲が同映画のエンディングテーマに使用されることになった経緯やその思いを脚本・監督を務めた近浦啓と語り合った。音楽のみならず、映画への造詣の深さも披露した佐野の話に、観客も熱心に耳を傾けていた。
【写真】笑顔で話す佐野元春と近浦啓監督
初監督作『コンプリシティ/優しい共犯』(2018年)に続く、近浦監督長編第2作目となる本作は、俳優の森山未來と藤竜也が、主人公の息子とその父親を演じたサスペンスヒューマンドラマ。エンディングテーマに、佐野元春&THE COYOTE BANDの最新アルバム『今、何処 (Where Are You Now)』の表題曲「今、何処」が使用されている。
10代の頃から佐野の楽曲と詩の世界に魅了されてきたという近浦監督は、2012年より佐野のライブドキュメンタリー、ミュージック・ビデオなどを数多く手がけてきた。佐野とは顔見知りだったわけだが、「これまで映画について話をすることがなかった」と意外な事実を明かし、自身の作品上映後にトークイベントという形で対談が実現した喜びでいっぱいの様子だった。
映画は、2022年に撮影を行い、編集に1年かけて完成に至ったが、エンディングをどうするか、かなり悩んだという。そんな時に、佐野のアルバムの特典用DVDの仕事で「今、何処」を聴く機会があり、「この映画の終わりがはっきり見えた」と近浦監督。「この映画の企画がスタートしたのは2020年の4月。(緊急事態宣言により)街から人がいなくなって、世の中が大きく変わった時に、“不在”という言葉を軸に物語をつくったので、『今、何処』という楽曲との不思議なリンク、必然性を勝手に感じました」。
近浦監督からの申し出を快諾した佐野も「10代の頃から映画が好きでよく観ていました、映画の中での音楽の使われ方に関心あった。『今、何処』が映画の中でここしかないと言う場面で聴こえた時に素晴らしいと思ったのと同時に、自分の音楽がこの映画に貢献できたと思えて、光栄に思いました」と満足げ。「楽曲の使われ方は、計算されているし、コンセプチュアルだし、的を射ていて、エモーショナルだと思いました」と、絶賛した。
本作は昨年9月に開催された「第48回トロント国際映画祭」でのワールドプレミアを皮切りに、海外の多数の映画祭で上映され、表彰されてきたことについて、佐野は「音楽も映画もユニバーサルな表現。そこに描かれていることが本当のこと、心理であれば、どの文化圏の人にも通じるはず。この映画が違う文化圏にも受け入れられたのは、この映画が一つの真実を持っているのではないか」と評価。
佐野が具体的なシーンを挙げながら「10代の頃に観た、ヌーベルバーグの手法ですね」などと指摘すると、近浦監督は我が意を得たりとばかりに、本作における役者たちのボイスや効果音まで含めた音響全体へのこだわり、撮影の裏側などをいきいきと話していた。
最後に、佐野が「このような形で自分の曲が使われたのは、初めてなんです。次に近浦監督がどんな作品を撮るのか楽しみ。その時ももし、僕の曲を使いたいなら使っていいよ」と気前よく話すと、客席から拍手が沸き起こった。これに、近浦監督は「いまのひと言を聞けたことが何よりの収穫。できれば次は提供ではなく、つくってもらいたいと思っています」と次回作への意欲を見せていた。
佐野元春「映画の中での音楽の使われ方に関心あった」 楽曲提供した近浦啓監督と公開対談
08/21 12:52
- 映画
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