暑い呉(ご)の国の牛は、月が出てきたのを日(太陽)と間違えてあえぐ。ひどく恐れる喩(たと)え。また、取り越し苦労の喩え。
『世説新語』(六朝時代の貴族の逸話集)に見える満奮(まんぷん)の故事。満奮は風の吹くのが嫌いだった。ある時、武帝が窓べに琉璃(るり)の屏風(びょうぶ)を置いたところ、満奮が嫌な顔をした。琉璃が透き通っているので素通(すどお)しと感違いしたのである。
わけが分かった満奮は「私は呉牛が月を見てあえいだようなものでございます」と弁解した。琉璃は今のガラスのようなものだろう。それを組み合わせた屏風は外が見えるので、風が来ると誤解した話。
満奮は呉の出身で、当意即妙(とういそくみょう)に自分を呉牛に喩えて、感違いをつくろった。
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