壺(つぼ)の中の世界。別天地。『漢書(かんじょ)』の方術(ほうじゅつ)伝(術を使う人の伝記)に見える話。
漢代に費長房(ひちょうぼう)という男が、市(いち)の役人をしていた。ある時、2階から見ていると、市場の薬売りの老人が店頭に壺を掛けていて、店じまいするとピョンと壺の中へ飛び込んだ。市場で気がついた人は誰もいない。
費長房だけがこれを見、その老人に頼んで一緒に壺の中へ入ることができた。入ってみると壺の中には立派な建物が並び、うまい酒やごちそうが満ちあふれている。2人で飲んで帰った、と。
壺の中にユートピアがあったわけだ。話はこれだけで至って簡単だが、こういう短い話にだんだん尾鰭(おひれ)がついて、唐代に流れ「伝奇(でんき)」となり、小説の源になる。
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