まえがき
「いやー先生、忙しくて来られなくて申し訳ない」とニッコリ頭をかきながら患者さんは謝る。
このように謝られながらできる仕事であるのだからありがたい職業なのかもしれませんが、「忙しくて」というのはなんとも情けない感じもいたしました。
ま、患者さんがそう思うのですから、こちらで一方的に目くじら立てて「何を言ってるんだ。そんなんじゃ診られない!!」なんて言えるほど強気にはなれないですが、なんとかなんないかなと思う。
私がこういった本を書こうと思ったのは、患者さんの考え方を改めてもらえないかという願望からかもしれないです。歯科をもうちょっと理解して、「歯ってどうでもいいってことではないな、やっぱりありがたいし大切にしたほうがいい。長生きできる時代なんだから歯がなかったら困る。だから...」くらいになっていただけたらという願いがあります。
もちろん「たかだか歯ではないですヨ」と大声で言うつもりはありませんが、歯があったほうがいろいろ良いこともあるし、それを長持ちさせるためには適宜適切に治療することであり、その前に治療しなくてもよくすることであることを知っていただきたいという思いがあるからです。
歯が痛くない時読む本ですので、くれぐれも歯が痛くなってから、さあ大変、と読み出すと腹が立って決して読めませんので...。
あとがき
生死をさまよったことがあります。もうかなり前のことです。こうして文章が書けたり、歯科の仕事ができるのは奇跡的と私はとらえております。
私は倒れて数日間、意識を失っていました。例え助かっても正常である確率は50%ぐらいだったそうです。
奇跡的に何の障害もなく、こうして生きていられるのは神様がまだやり残した仕事が多すぎるのでは?と思い、私に人生のやり直しを命じたのではないかと思って、歩んでまいりました。文章を書くのも、私の日常の忙しい生活からすると、とても考えられないことです。
私が入院した時のエピソードをちょっと書かせていただきます。入院する前に大変吐きました。そしてその入院直後に担当の医師は胃カメラを飲ませようとしました。その時私は「胃カメラを飲めない」とその先生に申し上げたところ、後になって「わがままな患者だ」と家族の者に話したようです。何ともその話を聞いて情けない感じを覚えました。しかし、そのエピソードは私に歯科の治療をするにあたって多くのことを教えてくれた様な気がいたします。
基本的には患者はわがままなものだと、とらえることができるようになりました。それまで歯を磨かないのは歯に対する意識が低く、単なる怠け者でわがままだととらえておりましたし、歯を絶対抜きたくないと言い張る患者さんを単に「困ったさん」と決めつけていた私は、反省するきっかけとなりました。自分が患者という立場に立った時に、医療者がどうあるべきかということに気付かされたわけです。
今回書かせていただいたこの文章は、少なくともその患者さんの立場に立った視点を忘れることなく、と考えながらのものですので、その意味では患者さんに理解をしていただけたのではないかと思います。また、そういう視点に立って術者側、つまり歯科医の立場を明確にし、ご理解いただけるようお話申し上げたつもりです。
できましたらこの本が歯科に対する、いや歯科医に対する理解の一助になればこの上ない幸せなことです。私のような歯科医になってまだ日の浅い者が、このように大それたことを書きますのは、この情熱に免じてお許しいただければ幸いです。
そして、本を読んで早目早目に歯の治療をし、自分の歯で一生食べ物が食べられる方が一人でも多くなることをお願いしまして、あとがきといたします。
今後、本の内容を「健康ジャーナル」に一部紹介させていただく予定です。出版元の砂書房(東京都足立区足立4丁目2211、03・5888・7444)には少し残部があることを確認いたしました。興味のある方はどうぞ読んでみてください。
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