以前、このコーナーで調査してほしい企画を募集したところ、「お正月に厄年の人は、厄落としとして洗剤などを配ります。どうやら県北だけの習慣らしいのですが、なぜでしょうか?」というメールをいただいた。この風習は、取材班もずっと気になっていた。これはもう、取材するしかない!
そこで読者やラジオ(欄外参照)のリスナーに、この風習について情報提供を呼び掛けると、たくさんのコメントが寄せられた。まとめると、次のような概要が分かった。
台所用を年の数
・厄年を迎えた人は台所用洗剤を年の数だけ配る。
・洗剤は熨斗(のし)が巻かれていたり、箱に入っていたりする。熨斗には厄年の人の名前が印刷されていることも多い。
・洗剤と一緒に紙風船を配る人もいる。
・配る時期は、年明けから節分ごろまで。
南限は二本松
実際、県北のホームセンターやスーパー、ドラッグストアなどには、毎年、専用の売り場ができる。厄を落とす、洗い流すという語呂合わせから、洗剤が選ばれている。
撮影に協力していただいたダイユーエイト福島黒岩店で聞くと、「年末から節分ごろまで売り場を展開する。洗剤の中でも、使用頻度の高さや、好みがあまり分かれないなどの理由から、台所用が選ばれているのではないか」と推測する。
県北では風習としてすっかり根付いているが、一方、ほかの地域ではほとんど知られていない。県北のリスナーからは「嫁ぎ先にそういう風習がなく、県北だけだったんだ!とカルチャーショックを受けた」「普通の風習かと思っていました」など、驚きの声が上がった。
この文化の境界はどこにあるのか。先日、記者は伊達郡最北の国見町に住む、今年厄年を迎える親戚から洗剤をもらった。また、同町のドラッグストアで専用の売り場を展開していることも確認できた。
では、南限はどこなのか。二本松市の北部と南部に住む読者から、それぞれ興味深い証言を得た。
同市北部に住む人は「数十年前に洗剤をもらった記憶があるが、それ以来もらっていない。男性が厄年を迎えたときに、本人ではなく家族や身内の女性が配る風習だったと聞いている」と振り返る。福島市に比べると若干浸透が薄く、グラデーションが見えてきた。
一方、二本松市南部の人は「知らなかった。福島市に来て初めて知った」と話す。そして、本宮市以南は「知らない、洗剤は配らない」という意見で一致している。どうやら境界線は二本松市にありそうだ。
それを裏付ける話を、県北を中心にドラッグストアを展開するハシドラッグ(福島市)専務の橋浦希一さんに聞くことができた。同社では「安達店(二本松市)でも厄払い用の洗剤売り場を展開しているが、福島市や伊達の店舗ほどは出ない」という。また、田村市船引町にも店舗があるが、そこでは売り場を展開しないそうだ。「あくまでも福島市や伊達が中心の風習だから」と橋浦さん。
概要と境界はおおむね分かった。次回はこの独特な文化の起源に迫る!?(佐藤香)