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【ふくしま乗り物語】かめ丸 愛の力で復活果たす

09/30 09:30

磐梯山を背景に猪苗代湖を泳ぐように運航する観光クルーズ船「かめ丸」。右奥は観光遊覧船「はくちょう丸」=猪苗代町(石井裕貴撮影) 【撮影情報】ドローン・DJI MINI4PRO
昭和天皇が乗船された「かめ丸」の2階客室。改装されて当時の面影はないものの、これからも旅の思い出を提供していく

 長年にわたって運航を続け、ユーモラスな見た目も相まって猪苗代湖のシンボルとして親しまれている。猪苗代観光船(猪苗代町)の観光クルーズ船「かめ丸」は1984年8月に就航した。翌月には昭和天皇が乗船され、当時、乗組員をしていた江刈内満(えかりないみつる)さん(72)は「ものすごい厳重な警備で、若手の私は遠くから眺めるだけだった」と振り返る。現在も陸上作業員として週末に勤務する江刈内さんは「かめ丸は子どもに人気があるから、やりがいがある」と話す。

 そんな猪苗代湖のシンボルも廃船の危機に陥ったことがあった。

 2020年6月、新型コロナウイルス禍で利用客が減り、当時の運営会社が廃業した。船の譲渡先として大阪府の企業が「解体して運んで別の場所で運航したい」と名乗りを上げたが、湖畔でホテル業を営むレイクサイドホテルみなとや社長の渡部英一(ひでいち)さん(73)が待ったをかけた。渡部さんは「ここで運航するならいいが、別の場所は困る。自分たちでやるしかないと思った」と回顧する。

 新しい運営会社を設立し、渡部さんが社長に就任した。県内外の企業から出資を受け、インターネット上で資金を募るクラウドファンディングも実施すると、全国の約千人から1600万円以上の支援金が集まった。

 21年10月に「はくちょう丸」が、22年7月にはかめ丸が運航を再開した。はくちょう丸は以前と同じ観光遊覧船として再スタートを切った一方、かめ丸は大規模な改装工事によりキッチンを備えるクルーズ船に生まれ変わり、ランチ会やサンセットクルージング、同級会などで利用され、人気を博している。渡部さんは「再開を支援してくれた方々のためにも、さまざまな企画を考えて事業を継続させたい」と力を込める。

 かわいい見た目とは裏腹に壮絶な復活劇を遂げたかめ丸は、今日も人々を乗せて悠然と猪苗代湖を周遊する。(伊藤雅将)

   ◇

 かめ丸 全国唯一のカメのキャラクター船。全長22.0メートル、全幅6.78メートル、総トン数112トン、定員78人。土、日曜日と祝日は遊覧船としてはくちょう丸と交互に運航しているほか、食事もできるクルーズ船として貸し切り運航している。

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