東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た土壌を巡り、環境省は31日、再生利用や最終処分の候補地選定では、受け入れ先の持続可能な地域づくりを含め、社会的利益を十分考慮する方針を明らかにした。早い段階から住民や自治体などと対話を始め、意見を反映していく考えも打ち出した。地域から歓迎されない「迷惑施設」の立地選定は金銭で解決しようとする事例が多く、専門家は「今後のモデルになり得る」と話す。
有識者検討会を東京都内で開き、同省が合意形成の進め方について素案を示した。国際原子力機関(IAEA)は9月にまとめた報告書で、土壌を受け入れることで得られる便益(利益、便宜)を明確にする必要性を指摘。建設作業などで生まれる雇用といった直接の利益だけでなく、環境や道徳の観点から社会的な意義を検討するよう促した。
委員からは「(金銭などの)直接的利益より、地域の将来を考える方が受け入れられやすい」「地方創生を後押しすることを明示するべきだ」などの意見が出た。
原発に関する迷惑施設は高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場がある。処分地選定の第1段階として、文献調査を受け入れると国から最大20億円が交付されるが、金銭を条件に自治体に手を挙げさせる方式は対立を招き、財政難の地域以外から関心を持たれにくいなどの指摘も出ている。
座長の佐藤努北海道大工学研究院教授は会合後の取材に「金銭的な動機付けは批判を招きやすい。地域住民らと対話し、地域から自主的に何が便益かを提案してもらう考え方は重要だ」と説明。除去土壌に関する合意形成の方法は、各地の迷惑施設の在り方を考える上で「新しいモデルになる」との認識を示した。