【9】最期まで母は母だった エッセイスト・大石邦子

02/18 08:30

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晩年の母。入院していた私は、行き場のないむなしさをいつも母にぶつけた。母が最期に私の胸に倒れ込んでくれたのは、命を懸けた私への許しだったように思える。それがなければ、私は救われなかった

 私は晩年の母と二人で暮らした。その頃の母は、時折おかしなことを言い出した。50年も前に亡くなった友人が突然現れたり、抱かせてもらった赤ちゃんを、幼い頃の長男だと思い込んで名を呼んだりする。  母がおかしくなるのは、ほかにも私が不機嫌になったり、無視したりしたときだった。そんなとき、母はベッドに正座してアルバムをめくっていた。みんなに頼りにされていた「母の時代」の写真だった。母を追い詰めているのは...

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