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【9】自作いい場面集も脚光 本宮映画劇場館主・田村修司

2022/09/15 08:30

フィルムの状態を確認する私。映画10本ほどの「いい場面」だけをつなぎ、一つの映画にしてしまったのは、全国でも私だけだろう

 この時期、日の目を見たのは本宮映画劇場だけではなかった。  私の持っている映画フィルムを「上映させてほしい」という依頼が舞い込んだのだ。

 きっかけは2012(平成24)年、筑摩書房のウェブマガジンに掲載された都築響一さんの「独居老人スタイル」という特集だった。独居生活を満喫する高齢者の生き方を紹介する何とも面白い連載で、そこで私と劇場のあるがままの姿を書いてくれた。

 筑摩書房には異例の千通を超える感想が寄せられたという。そして、これが地方最大規模の映画祭「カナザワ映画祭」の主催者の目に留まった。「記事で紹介された『成人映画いい場面コレクション』を上映させてほしい」

 「成人映画―」は、映画会社が製作したフィルムではなく、私が休館中に趣味で編集したフィルムだ。いやらしい映画を想像するかもしれないが少し違う。成人映画のフィルムから踊りや音楽、湯船のシーンなど、誰もが楽しめる部分を集め、一つのドラマのように仕立てたものだ。

 フィルム編集なんてできるのか、と思うだろうが、昔の映写技師ならできて当たり前だった。昭和の時代、地方の映画館に届くのは都会で散々上映されてボロボロになったフィルムだった。映写技師にはフィルムの傷んだ部分を切りつなぎ、上映ミスを防ぐ技術が求められた。ただ、その技術を応用し、10本もの映画から自分が思う「いい場面」だけをつなげ、一つの映画にしてしまったのは、全国でも私だけだろう。

 映画祭当日、金沢市の劇場を訪れると、客席は満杯で「成人映画―」は好評だった。上映後、関係者に呼び止められ「一番客入りがよかったです」と伝えられた。会場を出ると観客にサインを求められ、スターになった気分だった。

 それから、私の持っていたフィルムは神戸や東京の劇場でも上映された。まさか保管していたフィルムにまで光が当たるとは、思ってもいなかった。

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