東日本大震災と原発事故をきっかけに、避難所の姿は大きく変わりました。その中で、高齢者や障害のある人、持病を抱える人など、特別な配慮を必要とする人のために「福祉避難所」という仕組みが整えられてきました。制度の枠組みは整いましたが、実際の運用にはなお多くの課題があります。
まず、福祉避難所は発災直後から一斉に開設されるわけではありません。通常は、一般避難所で生活が困難な人が確認された段階で、自治体が必要に応じて開設する流れになります。そのため「すぐに利用できる」とは限らず、最も弱い立場の人ほど初動の数日間に苦しい避難生活を強いられる現実があります。
また、受け入れ先となる福祉施設や医療機関自体も被災する可能性があります。職員も被災者であるため十分な人員を確保できず、電気や水道が止まれば介護や医療のサービスを提供すること自体が難しくなります。こうした制約は制度上想定されていても、現場では深刻な障害となります。
自治体ごとの準備状況にも大きな差があります。2015年に内閣府が行った実態調査では、回答した福祉施設のうち約7割が自治体と協定を結んでいると回答しましたが、訓練を実施しているとしたのは約4割にとどまりました。自治体全体の数字ではありませんが、制度整備と現場の運用のあいだに隔たりがあることをうかがわせる結果です。
避難行動要支援者名簿や個別避難計画との連携を進め、地域で実際に動かせる体制を整えることが課題です。制度は形としては整ってきましたが、現場でどう機能させていくかが次の大きなテーマとなります。
