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【新まち食堂物語】馳走久に定・いわき市 妥協のない和食を提供

2025/12/07 12:30

  • 動画付き
目の前の客に妥協のない和食料理を提供する小沼さん。冬季限定の「あんこうのどぶ汁」を求めて来店する客も多い
小鉢や茶わん蒸し、サラダなどが付いてボリューム満点の「おまかせランチ」。使う野菜は極力地元産を選んでいる

 いわき市小名浜の小名川沿いにある閑静な住宅街にたたずむ「馳走(ちそう) 久(く)に定(さだ)」。木造平屋のこぢんまりとした店の名には店主の小沼徳男さん(76)の「料理人としてもう一度原点に立ち返ろう」という思いが込められている。13席の事前予約制で目の前の客に向き合い、妥協のない和食料理を提供している。

 一番人気は隔週でメイン料理が替わる「おまかせランチ」だ。小沼さんがその日の朝に市場などで仕入れた「常磐もの」を積極的に使用する。品数も多く、トレーいっぱいに並ぶ彩り豊かなメニューの数々に、訪れる客の目も腹も満たされる。

 群馬県出身の小沼さんは中学校卒業後、都内のすし店に住み込みで5年間働いた。「当時は並ずしで120円、上ずしで250円。信じられるかい」と笑う。ハスキーボイスにべらんめえ口調の話し方は、その頃に身に付いたものだ。

 その後、都内の他のすし店や日本料理店などで経験を積み、仕事で訪れて気に入った小名浜で店を出すことにした。

 故郷の名を店名に

 2000年に地区の目抜き通り、本町通りで開店した。50歳を越え、料理人として経験豊富な小沼さんだったが、ここで初心に返ろうと故郷の群馬県伊勢崎市国定(くにさだ)町になぞらえた店名を付けた。「『コクテイ』と呼ぶ人が多くてね。分かりやすい漢字を当てたつもりなんだけど、こっちも読みにくいよな」と話す。

 旬の常磐ものを使った海鮮料理は地元客や観光客から高い人気を集め、連日盛況に。小名浜で第二の人生を歩む中、東日本大震災が発生した。風評被害から客足は減り、移転を決めた。

 現在の店舗は、以前は賃貸の車庫だった。飲食店として使うには駐車場も店内も手狭だったが、小沼さんは運命を感じずにはいられなかった。「(住所が)諏訪町1丁目1番地ときたもんだ。またもう一回、原点からやり直せって言われてるようでね」。自らリフォームし、閉店から3カ月後に「運命の地」で営業を再開した。

 最良の食材を調達

 客からの「ごちそうさま」の言葉を当然とは思わない。「『馳走』という言葉は本来、良い食材を手に入れるために奔走すること。その上で、料理がおいしければその苦労をねぎらい『ごちそうさま』の言葉をかける」と思うから。電話一本での仕入れも可能だが、市場やスーパーに足を運び、自らの目で最良の食材を選んでいる。

 食材や予算、場面に合わせて客の要望に沿ったメニューも提供する。客の8割は常連客。中には両家の顔合わせで初めて来店し、その後のお宮参り、七五三に合わせて来店する家族もいる。「前に来たお客さんがまた来てくれると、その時の仕事が間違いなかったと思える。うれしいよね」とほほ笑む。「お客さんには本当に恵まれた。体力的には厳しいけど、『また来るよ』と言ってくれるお客さんのために頑張らないとね」。気さくな店主が振る舞う珠玉の料理を求め、今日も客がのれんをくぐる。

お店データ

■住所 いわき市小名浜諏訪町1の1

■電話 0246・92・1065

■営業時間 午前11時半~午後1時半(昼の部)、午後5時半~同9時半(夜の部)。昼・夜とも予約制

■定休日 月曜日。火曜日は夜の部のみ営業

■主なメニュー
 ▽おまかせランチ=1540円
 ▽海鮮ちらし=1650円
 ▽ばらちらし=1540円
 ▽にぎりランチ=1540円
 ▽あんこうのどぶ汁=3850円(2人前から提供)

 献立を記録し保存

 小沼徳男さんは客の献立表を紙にまとめている。年ごとにファイルにまとめ、現在23冊目。手書きで利用目的や献立、料理を出した時間などを記している。「前回とメニューがかぶったりしないように。祝い事などで失敗しちゃいけないから、こちらも気を使わなきゃね」

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