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【香道】奥深い...安らぐ香りと和歌の世界、日常生活にも取り入れ

05/23 09:25

香元が香炉の銀葉の上に香木を置く

 日本には平安時代から香りを楽しむ文化があったという。その文化から起こった芸道が「香道」だ。東南アジアなどで採取された「香木」と呼ばれる樹脂の塊をたき、立ち上る香りを「聞く」という。初心者でも香道を体験できる会が開かれると聞き、記者が参加した。 

 「組香」を体験

 福島市の極楽寺で開かれた御家流(おいえりゅう)妙香会の「春のお香会」。御家流は香道の流派で、室町時代の公家が発祥という。

 30人ほどの参加者が約30畳の部屋をぐるりと囲む。香をたてるお点前を見せる香元(こうもと)の前には、灰が敷き詰められた聞香炉(もんこうろ)などの道具一式が並んでいる。

240523kokohore7011.jpg※写真=香道に使う道具一式が納められた「乱箱(みだればこ)」。手前に二つある白い器は「聞香炉」

 香道には、和歌などの古典文学をテーマに香木の香りを聞き分ける遊び「組香(くみこう)」がある。今回は組香の一つ「桜香(さくらこう)」を体験した。桜香では紀貫之の和歌「桜花さきにけらしなあしひきの山のかひより見ゆる白雲」を基に、「桜花」と「白雲」という2種類の香木を聞き分ける。桜花は「伽羅(きゃら)」、白雲は「真南蛮(まなばん)」という香木が使われている。伽羅はベトナム、真南蛮はカンボジアが原産だ。

 組香では、まず香りを覚えるための「試香(こころみこう)」をする。温めた香炉に置かれた銀葉(雲母でできた透明な板)の上に香木がのせられると、香りが立ってくる。

240523kokohore7013.jpg※写真=香木の香りを聞く参加者

 香炉が参加者に順に回される。左手に香炉をのせ、右手で覆うようにして香りを3度聞き、隣の人へと手渡す。自分の番がやってきた。桜花は、甘い香辛料が複雑に混ざり合ったような香りだ。白雲は、桜花に比べて爽やかで落ち着いた印象だ。妙香会会員の湯田順峯さん(67)によれば「桜花は吉野の山を思わせるような、華やかで広がりのある多層的な香り。白雲はたおやかで、雲のように穏やかに漂うような香り」という。香りを表す言葉にも、香道の奥深さを感じた。

 その後「本香」でどちらか一つの香りを聞き、正解だと思った方の名前を和紙に筆で書く。自信はなかったが、甘い香りのイメージから桜花と書いた。運良く正解した。そして香元の「香り満ちました」の言葉で会が終わった。

240523kokohore7012.jpg※写真=香木の一種「真南蛮」

 香りを「聞く」

 なぜ香りを「聞く」というのだろう。湯田さんに尋ねると「香炉と向き合うとき、嗅覚だけでなく心を通わせるという意識で香りを感じる」とのこと。同じ香木でも気温や湿度、聞く側のコンディションによっても香りは変わるという。同じ「聞く」ものとして、音楽とも似た部分があると感じた。

 「一つの香りを記憶し嗅ぎ分けることは日常生活では経験がないため、慣れるまで難しい」と湯田さん。少しの火加減の違いで香りが変わってしまうこともあり、道具を扱うには修練が必要だ。

 リラックスしたいときに使える、自宅用の小さな香炉もあり、香道は日常生活にも取り入れられる。湯田さんは香道を始めてから、日常の中に隠れた自然の香りに敏感になったという。

 香道は「古典文学などにも親しみながら、香りに心を遊ばせ安らげる場」と湯田さん。日常に疲れを感じている人も、香りで癒やされてみては。妙香会の体験の申し込みは極楽寺のホームページからできる。(柳沼力樹)

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