全国新酒鑑評会で毎年多くの銘柄が金賞を獲得するなど、上質な日本酒の産地として知られる本県。ラジオ番組の企画でオリジナルの日本酒造りを体験した、ふくしまFMの北村茉倫(まりん)アナウンサーに”福島の酒”ができるまでの道のりを聞いた。
番組オリジナル
始まりは「ココほれ!ふくしま」でもコラボしていた、北村アナが出演するラジオ番組「FUKU―SPACE」内の「ふくしま酒蔵探訪記」というコーナーだった。番組終了後も情報番組「RADIO GROOVE」内でコーナーを継続し、県酒造組合特別顧問の鈴木賢二さんが監修を務めていた。酒蔵の取材を重ねるうちに北村アナは「県産にこだわった日本酒を造りたい」と思い、浪江町の鈴木酒造店の協力で番組オリジナルの酒を製造、販売することになった。
鈴木酒造店は、代表銘柄「磐城壽(ことぶき)」で知られる老舗酒造会社だ。震災の影響で山形県長井市に移転して酒造りを続けてきたが、2021年、道の駅なみえ内に完成した「浪江蔵」でも事業を再開した。
酒を造るに当たり「福島の今を知ってもらう商品にするため、全て福島県産の素材を使いたかった」と北村アナ。そこで鈴木さんから提案されたのが、大熊町で農業を再開した石田仁(じん)さんが生産する「福乃香(ふくのか)」という県オリジナルの酒米だ。水は、阿武隈山系から流れてきた地下水を、浪江町の取水場からくみ上げて利用することになった。
大阪出身の北村アナは、福島で最初に飲んだ日本酒の口当たりの甘さに衝撃を受けたという。そこで「甘みはありつつ後味はすっきり、そして香りがしっかり立つ、そんなお酒を造りたいとお願いしました」。
このリクエストを基に鈴木さんが、使用する材料や配合など「酒造りの設計図」を考える。中でも酵母は日本酒の味や香りに大きく影響するものだが、今回は「うつくしま夢酵母」と「うつくしま煌(きらめき)酵母」という、本県が開発した二つの酵母を使うことになった。
「オール福島」の素材がそろい、いよいよ仕込みの作業に入る。「私も長靴を履いて作業服を着て、従業員の方と一緒にふかした熱いお米を返す作業などを体験させてもらいました」。こうして定期的に浪江の蔵に通いながら酒造りを手伝ってきた。
思い描いた出来
酒の名称は、番組のリスナーから募集した。多数の応募の中から、ふくしまFMの「ふく」、「鈴」木酒造店と「鈴」木賢二さん、北村茉「倫」アナの「りん」をかけた「ふくりんりん」に決定。「お酒のイメージに合った、柔らかく軽やかな名前になりました」
今春から動き出した酒造りのプロジェクトは、ついに10月、商品の完成、出荷となった。出来上がった「ふくりんりん」を味わった感想を聞くと「初めて飲んだときは、もう、やばかったです」と興奮気味に語る北村アナ。「『ここまで思い描いた通りのものができるんだ』と驚きました。これ以上自分が好きになるお酒にはもう出合えないと思います」
こう大絶賛する「ふくりんりん」は、フルーティーで華やかな香りが特徴で、甘さと切れの良さが両立する爽やかな味わいだ。香りを楽しむために、15度から20度ぐらいの温度で、ワイングラスに注いで飲むのがお薦めだそう。鈴木酒造店では「常盤ものの刺し身と一緒に楽しんでほしい」と話している。ベリー系の果物とも相性が良く、日本酒を飲み慣れない人にも飲みやすく、白ワインの感覚で味わえるという。
番組では、酒蔵巡りのコーナーは今後も続く。酒造りを一通り体験したことで、「醸造のこだわりなど、取材の着眼点が変わってくる気がします」と北村アナ。「『ふくりんりん』をきっかけに、福島のお酒に興味を持つ人が増えたらうれしいです」(佐藤香)
純米吟醸酒「ふくりんりん」 鈴木酒造店製造、720ミリリットル入り1800円(税別)。2千本限定生産。道の駅なみえ内「SakeKuraゆい」(浪江町)、県観光物産館(福島市)ほか県内外の酒販店で販売中。