会津坂下町で多くの食堂が提供している「冷やしラーメン」。冷やし中華とは別物の冷たいスープのラーメンで、同町ではソウルフードとして親しまれている。町役場から近い目抜き通り沿いにその冷やしラーメン発祥の店「食堂いしやま」がある。
「創業は戦前で、80年以上の歴史があると聞いている」。4代目店主の福地隆史さん(48)が教えてくれた。創業当時から3回の建て替えを経たが、昔ながらの食堂を思わせる、温かみのある店内だ。
当初は「石山家」がうどんやそばなどの軽食を提供していた。しかし、第2次世界大戦が始まったことが影響し、物資が不足したり、店員が働くことができなくなったりして一時は閉業。戦後、石山家から福地家に嫁いだ福地ミナさんが2代目として店を再開した。いしやまという店名はそうした経緯の名残という。
誕生から70年超
冷やしラーメンの生みの親はミナさんだ。冷やしラーメンは多くの店で夏季限定で提供されている。夏の風物詩とされているが、誕生した季節は冬だった。1952年、ミナさんは風邪をひいた友人から「するすると食べられて、体の熱を下げる食べ物を」と注文を受けた。要望に応えようと、ミナさんは冷やしラーメンを考案したという。いしやまでは「冷しラーメン」として提供している。70年以上前に誕生した名物は、その後町内の店に広まっていた。
いしやまでは通年で冷しラーメンを味わうことができる。「冬に誕生したメニューだから、冬に提供しない理由がない」と隆史さんは笑顔で語る。いしやまの冷しラーメンは受け継がれてきた調理方法を守り続けている。特長は豚肉のうまみを凝縮したたれを日本名水100選に選ばれた磐梯西山麓湧水群の龍ケ沢湧水で割ったスープだ。たれは3日をかけ、水も3日に1回くみに出かけるなど手間暇がかかる。
透き通った黄金色のスープはこくがありつつ脂を一切感じさせない。こしのある麺とスープが絡み、するすると胃袋に収まっていく。具はシンプルにチャーシュー、刻みタマネギ、メンマのみ。丼に浮かぶ湧水の氷が涼しげな見た目を演出する。
町民の活力の源
夏はもちろん人気のメニューだが、暑さが過ぎた後でも、二日酔いの客が注文するなど、町民らの活力の源になっている。隆史さんの父で先代店主の隆一さん(77)が手打ちする十割そばも香り高く、来店者の人気を集める。
隆史さんは調理の専門学校を卒業後、一時はいしやまで働いたが、友人の誘いで東京都内のイタリアンで8年間ほど働いた。戻ってきたきっかけは「失恋です。いたたまれなくなって戻ってきました」と照れながら明かす。帰郷して約20年が過ぎた。「年月がたっても店の名物が多くの人に愛され、受け継ぎ続けていられることが何よりうれしい」。ただ、まだ全国の認知度は山形県の冷やしラーメンに劣っていると感じている。「イベントなどを通じてもっと広めたい」。澄み切った見た目からは想像もできない深い味わいから目が離せない。(鹿岡将司)
■住所 会津坂下町字市中二番甲3617
■電話 0242・83・2365
■営業時間 午前11時~午後2時30分、午後4時~同7時
■定休日 不定休
■主なメニュー
▽冷しラーメン=750円
▽もりそば=650円
▽カレーライス=680円
▽焼肉丼=800円
▽お土産用冷しラーメン(4食分)=1350円
歴史を物語る写真
いしやまの創業年月日は定かではないが、80年以上の歴史があるとされている。立地は創業時から変わらず、店内には建て替え前の店舗と、冷しラーメンを考案した2代目店主の福地ミナさんの写真などが飾られ、歴史をうかがうことができる。
NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画
新まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。