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【7月6日付編集日記】おためごかし

07/06 07:45

 いまではほとんど使われなくなった言葉の一つに「おためごかし」がある。意味は、相手のためにするように見せかけて、実は自分自身の利益を図ること。言い換えると、偽善的で見せかけの行為といったことになろうか

 ▼なぜ聞かれなくなったか。ドイツ文学者でエッセイストの池内紀さんによれば、おためごかしそのものがなくなったわけではないという。政治家の言説、マスメディアの仕組み、経済など社会全体がおためごかしから成り立っていれば、わざわざ言うこともないからだと手厳しい

 ▼旧優生保護法下で障害のある人らが不妊手術を強いられたことについて、最高裁が違憲判断を示した。不幸な子どもの生まれない施策などと、時にうそも許されるなかで進められた国策の愚かさに、おためごかしの言葉が重なった

 ▼衆参両院の全会一致で旧法が成立していたのには、いまさらながら驚かされる。事実を伝えられなかったり、言い出せなかったりして苦しんできた人たちを前に、国は免責を主張し続けてきた

 ▼健常者の目線で、聞こえのいい言葉を並べているだけに終わってはいないか。障害のある人が分け隔てなく暮らせる社会のありようがいまも問われている気がする。

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