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【環境考察/農業新時代】土耕さずに育てる 微生物の働きで環境改善

09/03 08:20

不耕起栽培でコメ作りに挑む児島さん(右)。「土を耕さないことが自然の姿」と感じている=6月、会津美里町

 農作物を育てる際、土を耕す行為が広く行われている。この「常識」を覆し、「耕さない」農法が農作業の省力化や土壌環境の改善、温室効果ガスの排出抑制に効果があるとして注目を集めている。

 会津美里町で有機農業に取り組む「自然農法無の会」代表の児島徳夫(73)は6月、水が張られた田んぼを前につぶやいた。「育ちは悪くないね。雑草が生えているから、どうなるかだな」

 同会は今年から、コメ作りで土を耕さない「不耕起栽培」に取り組んでいる。「不安はあるけど、耕さないことが自然な姿。(土に)ストレスがかからないから(稲が)健康に育つのではないか」と児島は話す。

 昨年はライ麦を緑肥にして大豆を栽培した。順調に育ったが、思うような収穫にはつながらなかったという。「水分の不足が影響したのかもしれない」と同会研修生の大島武生(25)。だが、不耕起栽培に一定の手応えを感じており「省力で持続可能な不耕起栽培のやり方を見つけていきたい」と意気込む。

 経験長いほど抵抗

 不耕起栽培は文字通り、農地を耕さないで農作物を育てる農法だ。世界的な広がりを見せる一方、日本ではそれほど浸透していない。「農業を長くやってきた人にとって、耕さないことに抵抗があるのではないか」。不耕起栽培を研究する福島大食農学類特任教授の金子信博(65)は推測する。

 不耕起栽培では耕運機などの機械を使わないことから燃料費を削減でき、作業時間の短縮も図られる。加えて土の中に有機物が残りやすく、微生物などの働きによって保水性などが改善され、土が軟らかくなる。「土を耕すことによって土の中の土壌生物がいなくなり、土が硬くなる」と金子は言う。

 空気中へ放出防ぐ

 環境面での利点もある。土を耕さないため、土の中の有機物が分解されて炭素が空気中に放出されるのを防ぐという。土の中に多くの炭素を蓄えることができ、脱炭素につながる側面も併せ持つ。茨城大の研究グループが行った調査によると、不耕起栽培と土壌の植生の被覆(カバークロップ)を組み合わせることで、土壌炭素貯留が大きくなるなどの効果があった。

 不耕起栽培による収量や品質への影響、温室効果ガスの発生量などを調べるため、金子は現在、大学周辺で稲や大豆などの栽培実験をしている。金子は「しっかり研究し、時代に合わせて環境負荷が少なく、農家の収入にもなる農法を見つけていきたい」と見据える。(文中敬称略)

          ◇

 不耕起栽培 農地を耕さないで作物を栽培する農法。農地を耕さないため、農作業の省力化や生物多様性の保全、温室効果ガス

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