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蚕種開発、尽きぬ情熱 伊達の製造所9代目「品種改良挑戦は面白い」

09/03 12:10

掃き立て作業に向けて、蚕種用の袋を製造する冨田さん

 養蚕農家に蚕の種を供給している福島県伊達市伏黒の冨田蚕種製造所の9代目冨田克衛さん(86)は、国内で唯一の個人経営業者で、東北地方では9割超のシェアを誇る。蚕の卵生産に取り組む傍ら、業界発展につなげようと品種改良にも力を入れる。「新たな品種改良への挑戦は不安な面もあるが面白い。難しいけれど一つの勉強だ」と笑顔で語る。

 同社は、卵からふ化したばかりの蚕を幼蚕飼育場に移す「掃き立て」作業の開始に合わせて、蚕の交配や卵のふ化作業などを行う。病気に強く、高品質な繭を生産するため、日本種と中国種をかけ合わせた「F1(一代交雑種)」など注文に応じた蚕種を作る。早朝にさなぎから成虫となった蚕を回収し、4、5日間かけて蚕を交配させ、専用の台紙に産卵させる。雄と雌で成虫になるまでの時間が異なるため、保管可能な雄が先に成虫となるよう、注意して段取りするという。その後に繭生産者に卵を供給するが、冨田さんは「繭を作る人が一番大事な人」と強調する。

 冨田さんは1938年に旧伊達町で生まれた。7人兄妹の三男だったが、長男が病気がちだったため、家業を継ぐように告げられた。保原高を卒業後、信州大繊維学部で蚕の卵について研究し、60年にUターンした。

 73~75年は県内の繭生産量が1万トンを超え、養蚕業は活気にあふれていた。しかし、平成初期に貿易の自由化で安価な生糸が輸入されると、国内の製糸業が徐々に衰退。県内でも大手の蚕製造所が縮小し、昨年度の繭生産量は約6.8トンまで減少する中、同社はエジプトやギリシャ、カナダなどの海外にも蚕種の販売先を拡大、シェアを伸ばす。

 現在、冨田さんは9月の晩々秋(ばんばんしゅう)蚕の掃き立て作業に向けて、蚕種用の袋の製造に励む傍ら、既存とは異なる形の青色の繭を作る蚕や繭の大きい蚕の品種改良に力を入れる。蚕種の温度調整や複雑な種取りが必要となるが「自分に対するテスト。半分趣味」と語る。蚕に対する好奇心は尽きない。

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