【10月5日付社説】所信表明演説/国民に真の「安心」もたらせ

10/05 08:05

 石破茂首相が所信表明演説を行った。首相は「全ての人に安心と安全を」と何度も繰り返し、実現に向けた基本方針、施策を語った。ただ、経済や外交など多くの分野で岸田政権の路線を継承する内容が多く、「石破カラー」を鮮明に打ち出せたかは疑問だ。

 まず取り組まなければならないのは、政治に対する国民の信頼回復であることは言うまでもない。首相は「政治家のための政治ではない、国民のための政治を実現する」と語ったが、その通りだ。

 しかし国民の信頼を大きく損ねた「政治とカネ」の問題への対応には物足りなさが残った。不正の温床となっている政治資金については「改正政治資金規正法を徹底的に順守し、限りない透明性を持って国民に公開することを確立する」としたが、その具体的な取り組みへの言及はなかった。

 派閥の裏金事件で政治資金収支報告書に不記載のあった議員への対応、総裁選でも焦点となった使途公開不要の政策活動費の在り方などにも触れなかった。次期衆院選の大きな争点であり、これでは有権者に十分な判断材料を示したとはいえないだろう。

 首相は、少子化と人口減少について国の根幹に関わる「静かな有事」との認識を示し、地方創生の施策を強化すると強調した。人口減や高齢化などで産業が衰退、コミュニティーの維持が難しくなっている地方は危機的状況にある。

 首相は、観光産業の高付加価値化、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増を目指す考えなどを示したが、大きな成果が見られなかった従来の施策の延長線上では心もとない。抜本的な見直しを検討する必要がある。

 全国で甚大な自然災害が頻発するなか、専任閣僚を置く防災庁を設置し、平時から事前防災への取り組みを強化するとも語った。災害関連死を防ぐため、避難所の在り方を見直す考えも示した。東日本大震災をはじめ、多くの災害に見舞われた本県の経験や教訓を十分に生かして取り組んでほしい。

 経済政策では、物価上昇を上回る賃金増を目指し、最低賃金を2020年代に全国平均1500円とする目標を掲げた。そのためにも企業の生産性向上への支援策を強化し「賃上げと投資がけん引する成長型経済」を実現、危機に強靱(きょうじん)な経済・財政を作るとした。

 超高齢化社会にあるなか、物価高は最低賃金と関係のない高齢世帯も直撃し、医療や年金などの社会保障制度も難しい課題が山積している。国民を真に安心させる政治を新政権に求めたい。

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