2019年10月の東日本台風により、甚大な被害が発生した阿武隈川流域の小学校などでは、子どもたちを対象とした防災教育の取り組みが広がっている。
赤木防災の日
「子どもたちには、この学校が台風の被害に遭ったことを忘れないでいてほしいんです」。郡山市の赤木小の小椋敬次校長(57)は防災教育への思いを語る。同校は1階部分が約1・6メートル浸水し、2カ月半にわたり使用できなくなった。被災翌年の20年には、10月12、13の両日を「赤木防災の日」と定め「災害を忘れず、防災意識を高める」ため現在も授業などを続けている。
従来の避難訓練に加え、水害を想定して上階に逃げる「垂直避難」の訓練に力を入れ、安全に保護者に子どもたちを引き渡す訓練にも励んでいる。今年は今月12日が休日のため、校内放送で呼びかけ、各学年や学級ごとに、災害について考える時間を設けた。6年生は被災した様子などを写真やスライドショーで振り返った。
子どもへの教育以外に、被災の教訓が校舎に生かされている。1階が水没した経験から、教室や職員室は2階に移動。1階は普段は使わない特別教室とし、被災の記憶をつないでいる。小椋校長は「災害はいつ起こるか分からない。『赤木防災の日』を生かしながら、子どもたちに防災、減災を強く指導していきたい」と話す。
避難所づくり
住宅など1400棟以上が浸水し、計7人が亡くなった本宮市も防災教育に力を注ぐ。市内は阿武隈川の越水や、支流の安達太良川の堤防が決壊したことで大きな被害が出た。
本宮まゆみ小の鈴木規男校長(59)は「東日本台風は子どもたちの身近で起きた災害。教訓は伝えていかなければならない」と語る。今年9月には、6年生の授業参観で東日本台風の被害などを学びながら、避難所を設置する体験学習を行った。小斎広志市地域防災マネジャー(57)が講師を務め、児童は保護者と段ボールベッドの組み立てなどに挑戦した。市によると、市が小中学校から依頼を受け、本年度に実施した防災講座は11回。昨年度の7回を上回った。
小斎さんは「逃げられるうちに逃げる」をキーワードに挙げ、子どもたちに前職の自衛隊で培った経験や早期避難の重要性を伝え続けている。
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この連載は須田絢一、斎藤優樹、近内雅基が担当しました。