国内外の分断を埋めようとする取り組みなしに、「米国を再び偉大に」は実現できないことを肝に銘じるべきだ。
米大統領選で、共和党のドナルド・トランプ前大統領が返り咲きを決めた。バイデン政権下で進んだ物価高や不法移民流入に不満を募らせた有権者の間で支持を広げた。選挙戦は強権的な言動の目立つトランプ氏を支持する層と、それに反発する層の対立が激化し、文字通り国は二分された。
トランプ氏は勝利宣言の演説で「分断を過去のものとし、結束するときだ」と述べた。ただ、その分断を先頭に立ってあおったのはトランプ氏に他ならない。国民の融和を図るためには、敵をつくって論難することで支持を強固にする手法を慎むことが必要だ。
経済政策を巡っては、トランプ氏には「米国第一」に象徴される、内向きで国際社会の共存を軽視する姿勢が見て取れる。国際社会がトランプ氏に再び振り回される状況が懸念される。
トランプ氏は選挙戦で、全ての輸入品に10~20%、中国には60%の関税を課すと主張してきた。新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」からの離脱を予想する指摘もある。こうした動きが現実となれば、国際経済に深刻な影響が生じるのは不可避だろう。国際経済が縮小し、米国のみが内需頼みで成長することはあり得ないことを考慮して、行動した方がいい。
トランプ氏はロシアによるウクライナ侵攻の収束に自信を見せているものの、ウクライナに不利な形での停戦を独善的に進めるようなことがあれば、北大西洋条約機構加盟の各国との間に亀裂が生じるのは間違いない。中東情勢を巡ってはイスラエル支持が強まるとみられる。ただ、それが戦闘の沈静化につながるかは不透明だ。
台湾に対する威圧を強める中国への対応については、バイデン氏より明らかに関心が低い。どう動くのか予測できない部分がある。
米国が国際融和に向けた動きを抑えることで、各地で起きている戦闘や紛争による混乱に歯止めが利かなくなる恐れがある。国際秩序の安定に対して責任ある対応を取らなければ、戦闘などによる混迷の影響は、米国にも例外なく降りかかってくると自覚すべきだ。
日本は関税強化に加え、在日米軍の駐留経費の負担増が求められるとの観測もある。米国に追従するだけでは、経済や財政への負担回避は難しいだろう。同盟国の強みを生かしつつ、どう日本の国益を守っていくのか。政府にはしたたかな戦略が求められる。