悪質な運転による事故は過失ではなく、人の命を顧みない犯罪だ。適正な刑罰を与えるための仕組みを整える必要がある。
法務省が、悪質事故に適用される自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪の要件見直しに向けた検討を進めている。背景にあるのは、危険運転の要件ともなっている飲酒や速度違反などがありながら、危険運転致死傷ではなく、過失運転致死傷による立件が圧倒的に多いことだ。事故で亡くなった人の遺族が、過失運転の適用に不満を抱き、再捜査などを求め、実際に適用する罪が過失運転から危険運転に変わったケースもある。
過失運転罪は文字通り、ミスにより事故が起きた際に適用される刑罰だ。危険運転の法定刑の上限が懲役20年であるのに対し、過失運転は上限が懲役7年と大きな開きがある。例えば飲酒運転を過失として扱うのは、被害者側の処罰感情に応えるものとは言えまい。
現行法は、危険運転に該当するドライバーの血中アルコール濃度や速度超過について、具体的な基準を定めていない。このため刑事裁判では、車の制御が困難であったかどうかや、速度の認定が争点となることがある。適用の基準が定められていないことにより、加害者側に飲酒や明確な速度違反があった場合でも、捜査当局が確実に立件できる過失運転罪を適用する傾向があるのは否めない。
飲酒などが原因の事故は、過失とみなすのにそぐわないものがほとんどだ。悲惨な事故の防止につながることも踏まえれば、捜査当局が実情に即した刑罰を求めやすくするのが妥当だろう。
法務省の有識者検討会は、危険運転罪を適用する際の飲酒や速度について数値基準の設定が考えられるとの報告書をまとめた。適用する際の血中アルコール濃度や、速度超過の程度についての基準を設け、それを上回る場合には同罪を適用することを提言した。タイヤを滑らせるドリフト走行も「重く処罰すべき」と危険運転の要件に加えるべきだとも指摘した。
法改正に向けて焦点となるのは、適正な基準の設定に加えて、基準を下回った事故の扱いだ。基準に満たない場合でも、飲酒や速度超過が事故を招いたとみるのが妥当なケースが、一定の割合であると想定される。
検討会の議論では、基準に満たない場合でも個別に判断し、危険運転罪を適用できるようにすべきだとの声があった。基準が適用の条件として杓子(しゃくし)定規に用いられることがないよう、運用ルールを構築していくことが肝要だ。