デジタル化ありきではなく、子どもたちの学力をどう伸ばすかを前提に考えなければならない。
中教審の作業部会が、現在は紙の教科書の代替教材とされているデジタル教科書を、紙と同様に検定や無償配布の対象となる正式な教科書に位置付ける方向性を示した。2030年度の導入を想定し、年度内に中間まとめを行う。
作業部会では、デジタル教科書の使用を全国一律の対応とすべきか、教育委員会や学校が主体的に選べるようにすべきかなどが議論された。心配なのは、デジタル教科書が子どもの学力にどう影響するのかは、メリット、デメリットとも指摘されており、研究者の間でも推進すべきかどうかの考えは分かれている。
中教審の議論の過程では、経済協力開発機構の国際学習到達度調査で、デジタル教科書を利用している国の成績の推移などから、デジタル教科書の優位性を示すデータが多く示された。子どもたちがデジタル教科書の方が「いろいろな情報を集めやすい」などと評価している声も紹介された。
ただ、デジタル教科書には、学習が端末のみで済んでしまうため、メモを取るなどの能力が衰え、学力低下につながりかねないとの指摘がある。海外の研究では、読解力や知識を使う力の育成にはデジタルより紙の方が優れているとの結果もある。
学力などへの影響があいまいなまま、デジタル化へと急速にかじを切るのは拙速だ。
義務教育は、子どもや国の将来を支える重要な基盤を育むものだ。どの教科書の内容を評価するかではなく、紙にするかデジタルにするかを教育委員会や学校の判断に委ねるのは、一定水準を保った義務教育を保障する国として責任のある態度とは言えまい。
デジタル教科書の使用を全国一律にするかの判断は、学力や学習意欲への影響をさらに検証してからでも遅くはない。
作業部会では「デジタル教科書を使った授業実践ができる教師の力をしっかりとつけることが重要だ」などの意見が出た。タブレット端末の利用状況については、学校や教員間で差があることが指摘されている。文部科学省がデジタル教科書の本格導入よりも先に考えるべきなのは、多忙化が指摘されるなかで、教員にデジタル化された教材を有効に活用できる能力をどう身に付けさせるかだ。
デジタルの活用に精通した教員に習うか、そうでないかで、子どもたちの将来に差を生じさせることがあってはならない。