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【2月7日付社説】トランプ関税/脅しの外交は容認できない

2025/02/07 08:05

 自由貿易を阻み、対立と混乱を招く手法は即刻改めるべきだ。

 トランプ米大統領が表明したメキシコ、カナダ、中国の3カ国への関税発動を巡り、関係国の攻防が激化している。メキシコとカナダからの輸入品に新たに25%、中国に10%の追加関税を課す内容だが、メキシコとカナダについては首脳間で直接協議し、発動直前になって1カ月延期された。

 トランプ氏は関税措置の理由として、貿易とは関係ない、米国内で社会問題となっている合成麻薬や不法移民の流入を挙げている。世界最大の経済力を背景に関税を持ち出して、相手国を追い詰める「ディール(取引)」との見方が大勢だ。このような脅しの外交は容認できない。

 国境警備の強化などを打ち出して発動延期にこぎ着けたメキシコとカナダは、報復関税などの対抗措置を示し反発した。今後も米国が強硬姿勢を続ければ関係は悪化し、麻薬や移民などの課題の解決が困難になるのは避けられまい。

 関税は国内産業の保護につながる一方、輸入品の価格や物価の上昇をもたらす。米国にとって3カ国は貿易相手国の上位を占める。米国企業は生産コスト増による競争力の低下を招き、日用品や食料などを輸入に頼る国民生活への打撃は少なくない。相手国だけでなく自国にも不利益をもたらす施策を強行するのは理解に苦しむ。

 最も憂慮されるのは中国との関係だ。中国は世界貿易機関(WTO)に米国を提訴、対抗措置として米国に最大15%の追加関税を課すと発表した。トランプ氏は第1次政権で知的財産権の侵害などを理由に制裁関税を中国に課し、対象品目を徐々に拡大させた。中国は報復関税で対抗し、「米中貿易戦争」に発展した。

 今回の追加関税で、機械や電子部品などは第1次政権から続く関税と合わせ計35%になる。国内経済の低迷が続く中国にとって大きな痛手だ。対抗措置で貿易戦争はさらに激化する恐れがある。

 大国同士の対立は、世界経済を揺るがす不安要素でしかない。双方に冷静な対応を求めたい。

 今回の対象3カ国には多くの日本企業が生産拠点を構え、米国に輸出している。既に生産拠点の変更などを検討する企業もあり、深刻な影響を及ぼしている。トランプ氏が欧州連合(EU)などからの輸入品に関税を課す考えを示していることも気がかりだ。

 石破茂首相はきょう、トランプ氏との首脳会談に臨む。同盟国として貿易戦争の弊害を訴え、発動撤回を直言してもらいたい。

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