東京電力は今月から、福島第1原発にたまる処理水の海洋放出で空になった溶接型タンクの解体を始めた。地道な作業だが、長期にわたり安定的に廃炉作業を続けるための原発構内の敷地利用の転換点として注目される。
東電は原発事故後、増え続ける処理水を安定保管するため溶接型タンクの建設を進めてきた。現在は、仮に海洋放出を1年間止めても新たに発生する処理水を十分に貯蔵することができる空き容量を確保したため、タンクの新設は終了しているものの、これまでに1030基が建てられ原発構内に林立している。
東電によると、今後の廃炉作業では1~3号機から取り出す溶け落ちた核燃料(デブリ)の保管施設の建設、使用済み核燃料を専用の容器に入れて保管する施設の増設など、さまざまな建物の整備が予定されている。しかし、原発の構内に余分な土地はないため、処理水の放出で空になるタンクを解体することで、敷地を確保する計画になっている。
タンク解体は、デブリ取り出しの本格化に備えた施設整備の第一歩となる。ただ、タンク跡地に建設するのは放射線量の高い物質を扱う施設で、防護機能を確保しなければならない理由などから、規模が当初計画より大きくなる可能性がある。東電は安全面を確保しながらタンクを迅速に解体する技術を磨き、余裕を持った敷地の確保を進めることが重要だ。
タンクの解体を巡っては、当面は700立方メートルのタンク12基を新年度いっぱいかけて解体する。東電によると、タンク1基を解体すれば、大型の乗用車が入るような20フィートコンテナ約3・5基分の金属がれきが生じる。コンテナは原発北側の区画に運搬して保管するが、長期にわたりタンク解体を継続していけば、置き場にも限界が生じてくる。
東電はタンク解体で出る金属を切断、溶かすことによって総量を減らす方針だが、溶融に使う炉は今後建設する計画を掲げるにとどまっている。東電は、先手を打って金属がれき処理の体制を構築し、保管場所の不足が将来のタンク解体のスケジュールの妨げにならないようにする必要がある。
処理水をためるタンクでは、長年の使用による腐食などにより、鉄板が薄くなった事例が確認されている。東電には、それぞれのタンクが役割を終えて解体されるまで、超音波や水中ドローンによる点検や、適切な補修などの漏えい防止対策を改めて徹底していくことも求めたい。