• X
  • facebook
  • line

【3月9日付社説】風化防止 震災14年/県内での記憶継承が必要だ

2025/03/09 08:05

 阪神大震災で被災した兵庫県では、30年を経て震災の教訓が引き継がれている。本県においても、東日本大震災による地震や津波、東京電力福島第1原発事故の事実と経験を風化させることなく伝え続けていくことが必要だ。

 県は風評・風化対策の強化戦略の中で、時間の経過とともに本県に関する情報量が減り、主に県外の関心度や応援意向が低くなることが風化の悪影響と指摘する。このような考えから、対策の方向性は、本県に対する誤ったイメージが固定したまま無関心にならないよう、風評対策とセットにした県外への情報発信を軸にしてきた。

 一方、震災の伝承に関わる団体や研究者の間では、震災後に生まれた世代に知識や教訓をどのようにつないでいくかが課題として議論されてきた。また、さまざまな調査により若年層で「原発でつくられた電気の供給先はどこだったか」など、震災や原発事故に関する基礎的な知識が薄れていることも浮き彫りになっている。

 原発の廃炉や中間貯蔵施設にある土壌の県外最終処分の問題などの解決には相当の時間がかかるため、その経緯や責任の所在を次の世代に正確に伝える必要がある。県には、県外への情報発信の徹底に加えて、震災記憶の継承という内部に向けた風化防止対策を推進することを求めたい。

 記憶の継承を巡っては、県と震災伝承団体が連携し、語り部の育成に取り組んでいる。本年度は育成講座に14人が参加し、原発事故で避難を余儀なくされた思いなどを伝える担い手となった。語り部は、県の派遣講師として登録される。県外の各種団体への派遣は好評で、現在は県内の学校への派遣のニーズなどを探っている。

 次世代を担う子どもたちが震災の知識とともに、被災時に自分の身を守ること、互いに助け合う重要さなどの教訓を身に付けるためには、成長に応じた学びの場を繰り返し設けることが欠かせない。県は、語り部の積極的な派遣や震災を自分の身に置き換えて考える授業の好事例の共有などを進め、学校現場での震災教育のさらなる充実を図ってほしい。

 楢葉町では近年、小学生と地域住民のそれぞれを対象にした県外の被災地への視察を行っている。町によると、参加者にとって県外の災害の実情や自主防災の試みを知ることは、地元に帰って14年前の震災や地域防災の課題について学び直すきっかけになっているという。震災の記憶の風化を乗り越え、各地域がそれぞれの防災力を高めていくヒントになるはずだ。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line