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【4月29日付社説】高齢者の孤立死/見守り拡充で地域と接点を

2025/04/29 07:30

 1人暮らしの高齢者を孤独にさせることなく、異変を早期発見できる輪を築いていく必要がある。

 内閣府が、自宅で誰にもみとられることなく亡くなり、生前、社会的に孤立していたとみられる「孤立死」の推計を示した。孤立死が増加傾向にあるとみられることから、今後の対策立案のための基礎データとして初めて推計した。警察庁のデータを用いて、死後8日以上経過して発見されたケースをまとめた。

 2024年の孤立死は2万1856人で、このうち男性が8割を占めた。警察庁によると、県内で昨年、1人暮らしの自宅で亡くなったのは937人で、このうち7割超が65歳以上だった。誰からも支えが得られず、亡くなっていくのを望む人はいないだろう。死後に放置される状況が続くのは、故人の尊厳を損ねることにもなる。孤立死を防ぐ取り組みは急務だ。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、45年には、県内の65歳以上のうち、約4人に1人が1人暮らしとなる見通しだ。未婚率が高い団塊ジュニアの世代が今後、高齢期に入っていくことを考慮すれば、相当数の人が長い期間、1人暮らしとなる公算が大きい。

 県内では、市町村が新聞や飲料水などの宅配業者と協定を結んで、1人暮らしの世帯で、何らかの異変を察知した場合に役所・役場の担当部署に連絡してもらう事業が広まっている。老人クラブや民生委員などによる訪問活動に力を入れている市町村もある。

 こうした支援は異変察知だけにとどまらず、ほかの人との交流機会が確保されることで、高齢者の生きる張り合いとなったり、地域との関係をつくるきっかけになったりすることも期待できるだろう。各市町村は1人暮らしの高齢者と地域社会の接点をつくることに、より力を入れてもらいたい。

 身寄りのない人が亡くなった場合の遺留品や住居などの処分については、厚生労働省が手引を示している。ただ、遺体や金品の取り扱いなどがさまざまなケースに分かれており、手続きが煩雑だ。遺留品の保管や相続人の調査などで、行政への負担が大きくなることや、それによって故人が望まない形で相続などの手続きが行われる恐れも指摘されている。

 死後に自身の尊厳が尊重されないかもしれないことは、生きている人にも不安を与えかねない。政府には孤立死防止と並行して、孤立死した場合にも、必要な手続きが十分な配慮の下に行えるようにしていくことを求めたい。

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