国連が創立80年を迎え、大きな岐路に立っている。国際紛争が頻発するなか、大国の発言力の強さにより有効な手だてを打てず、機能不全の状態だ。平和と安定に寄与する力をどう取り戻していくのかが問われる。
国連は、2度の世界大戦を防げなかった反省に基づき、戦争の惨禍から将来の世代を救うことを目的に、米国をはじめとする第2次大戦の戦勝国を中心に設立された。国連憲章は大小各国の同権をうたい、設立目的の第1項に国際平和と安全の維持を掲げる。
1962年にソ連がキューバに核兵器を持ち込んだキューバ危機で収束に大きな役割を果たすなど、国連は各国に影響力を保ってきた。しかし国連は現在、世界情勢に対応する力を失っている。安全保障理事会の常任理事国で、決議への拒否権を持つ米国、ロシアが国連を通じた協調ではなく、2国間交渉を重視しているためだ。
ロシアはウクライナ侵攻当初、安保理の非難決議について、拒否権を行使し可決させなかった。米国も同様に、戦闘を支援しているイスラエルに関連する決議について拒否権を繰り返し行使した。両国の拒否権により、安保理が迅速な行動を取ることができなくなっているのは明らかだ。
加盟国に対する法的拘束力を持つ安保理は、国連の意思決定の実質的な最高機関だ。国連は2022年、拒否権を行使した場合はその理由を総会で説明することを定めたものの、拒否権そのものの制限や廃止には憲章の改正が必要となる。常任理事国の自国の都合を優先した行動が、国連の意思決定や活動を妨げるのを防ぐための改革を進めなければならない。
米国がトランプ大統領の就任以降、国連に厳しい姿勢を示していることは、弱体化をさらに加速しかねない問題だ。トランプ氏は国連に拠出する資金を削減し、国連は人道支援業務などが滞り、事務職員や通常予算の削減を迫られるなどの影響が出ている。世界保健機関(WHO)など関連する機関からの脱退も表明している。
国連の活動は実効性の確保、運営の両面で、世界最大の経済力と軍事力を持つ米国を抜きにはあり得ない。加盟国は連携し、米国を協調の輪に引き戻す必要がある。
国連の再生に向け、非常任理事国を最多の12期務める日本の役割は大きい。政府開発援助などを通じて長く国際貢献を続けてきた立ち位置を生かし、ほかの加盟国を主導しながら、平和と安全の維持、各国の同権を実現させるための方策を探っていくべきだ。
