生息域の拡大に合わせ、警戒や対策を強化する必要がある。
県内でツキノワグマの目撃情報が急増していることを受け、県が県内全域に「ツキノワグマ出没注意報」を発令している。注意報の発令は5年連続だ。気温の上昇とともに山間部だけでなく、福島市や郡山市で公園や住宅地の近くなどで目撃されている。
基本的に臆病で警戒心が強いクマは本来、人があまり踏み入れない奥山を中心に活動していたが、最近は山林で活動する人が減り、里山では耕作放棄地が増えたことで生息域を広げている。県内でも阿武隈川より東側の地域には分布していないと考えられていたが、今年4月に浜通りの大熊町でツキノワグマが捕獲された。
もはや県内全域で遭遇したり、襲われたりするリスクがあると考えなければならない。特にクマの活動が活発になる朝や夕方以降の時間帯は危険だ。レジャーや山菜採りなどで山林に入るときは当然ながら、過去にクマの目撃情報があった周辺では1人での行動を避ける必要がある。
クマの餌となるブナやミズナラなどの実は、数年ごとに豊作と凶作を繰り返す。これらが凶作の年は、餌を求めて人里に出没するクマが増える傾向にある。
昨年はブナなどが豊作だったため、県内の目撃件数はやや減少したが、栄養状態が良かったことで子どもが例年より多い可能性が高い。子育て中のクマは神経質になっており、子を守るため攻撃的な行動に出る恐れがある。
体長の小さいクマを見かけた場合はそばに親がいると考え、行動しなければならない。クマは背中を見せて逃げると、本能的に襲ってくるとされる。遭遇しても慌てることなく、静かに後ずさりしながら離れることを心がけたい。
人への警戒心が薄れ、市街地近くで活動する「アーバンベア」が増えている。県の調査では、集落近くに定着している個体がいることが確認されている。こうしたクマは家庭からの生ごみや畑で栽培された野菜、果樹などが餌になることを覚えてしまった可能性が高い。過去に目撃された場所のそばでなくとも、生ごみや野菜などを放置しないことが重要だ。
県は本年度、人の生活圏とクマの生息域の間に生い茂る草木の刈り払いや、電気柵の設置など地域ぐるみの活動を支援する。クマに人の生活圏に侵入させないためには、こうした緩衝地帯の整備が欠かせない。県と市町村は、人とクマが適切な距離を保つための取り組みをさらに推進すべきだ。