福島国際研究教育機構(エフレイ、浪江町)で、農林水産業分野の研究開発が始まっている。先端技術を生産現場へ積極的に導入し、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響を受けた浜通りの営農再開を後押ししていくことが重要だ。
エフレイが立地する浜通りの農業を巡っては、原発事故による住民避難が続いたことで、休耕地の増加と担い手の不足が課題になっている。このためエフレイは、ロボットやドローンなどを組み合わせた農作業の自動化、省力化を進め、少ない担い手でも多収益で大規模な経営ができるような農業の実現を目標としている。
中でも重視するのは、稲作の自動化だ。農業機械が倉庫と田んぼの間を無人で往復し代かきや収穫などの作業をこなし、生育診断を遠隔地からドローンで行うシステムの構築を目指す。システムが完成すれば、人口減少社会での営農のモデルとなることが期待される。エフレイは早期の実用化を図り、担い手の負担軽減やスマート農業に魅力を感じた新規就農者の増加に結び付けてもらいたい。
ただ、このシステムは平野部への導入を想定している。阿武隈山系の中山間地では担い手の高齢化が進み、小さな農地での水管理や除草作業への支援も不可欠な状況だ。エフレイには、県などと協力し、研究開発で得られた省力化技術を中山間地にも広げてほしい。
エフレイは、土壌の持つ役割を総合的に分析する新たな研究分野に着手している。これまでの農学では、土の性質や肥料の効果、細菌の働きなどを個別に分析することにとどまっていた。エフレイは複数の要素を組み合わせて分析することで、作物ごとの安定生産や収量増加につながるような土壌づくりなどを提案する考えだ。
浜通りの農地では、除染による地力の低下が問題になっている。エフレイは、土壌の分析を進めることで浜通りの地力回復に加え、化成肥料への依存が原因の土壌劣化の解決にも貢献できるとする。エフレイには分析精度を高め、国内外の課題を抱えた生産現場からニーズがある土壌回復の技術を確立することを求めたい。
エフレイは設立に際し、農林水産省が主導してきた技術開発を継承している。このうち、花卉(かき)の周年生産やタマネギ栽培の省力化などの技術が実用化に向けた最終段階にある。エフレイは、新技術の導入を機に農業団体や生産者との連携を深め、現場の意見を柔軟に今後の研究開発に反映させる関係を築いていくことも必要だ。