本県が独自に提案している「ホープツーリズム」が、2024年度に件数、参加者数ともに過去最多だった22年度を上回った。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の教訓を伝え、風化を防ぐ取り組みとして質、量ともに充実を図っていくことが重要だ。
ホープツーリズムは、浜通りを中心とした視察などのうち、県観光物産交流協会を通じて申し込み、現地で学びを助言するフィールドパートナーを同行させた旅行を指す。新型コロナウイルスの感染拡大で旅行先を都市部から本県に変更する動きを受け、件数は増加してきたが、参加者数は23年度に減少していた。
24年度は各地で説明会を開くなどして、件数は438件、参加者数は22年度より多い1万9071人になった。現地を訪れて災害を自分のことと考えてもらう視察は、主体的な学びを求める学校にとって有用な企画のはずだ。県と協会は県内外の学校に呼びかけ、ホープツーリズムの定着と参加者増につなげてもらいたい。
県によると、24年度の参加者の内訳は、学校などによる視察が7割で、企業や一般の団体は3割にとどまっている。ただ、統計には入っていないが、双葉町にある浅野撚糸(ねんし)の製造拠点「フタバスーパーゼロミル」の同時期の視察者が延べ5034人に上るなど、企業や団体による潜在的な需要はあると見込まれる。
企業には南海トラフ巨大地震などの発生に備え、事業継続計画(BCP)の策定が求められている。本県の企業が、震災を乗り越えて事業再開を果たした事例は、他では得られない貴重な情報となる。県と協会には、被災地を持続可能な地域づくりを学ぶ場に改めて位置付け、企業や団体へのアプローチを強化してほしい。
今後も参加者を確保していくためには、新規の実施を呼びかけるとともに、一度来てくれた学校や団体をリピーターとすることが欠かせない。協会は再度訪問する主催者の要望に応じるため、富岡町に現地窓口のサポートセンターを設けて新たな訪問先の掘り起こしなどを進めている。
浜通りの状況は刻々と変化し、被災を感じることができる建物や風景が減っている。被災地での学びに加え、学生の思い出づくりを大事にしたい学校もあるだろう。県と協会には、震災を知らない世代にも分かりやすい説明方法の改良に加え、他の観光地と組み合わせたツアーを提案するなど、ホープツーリズムのさらなる発展を目指していかなければならない。