改革と銘打っても財源や税制などの肝心の議論が手つかずのままでは、現役世代の将来不安はいつまでも解消されない。
自民、公明、立憲民主の3党が年金制度改革法案の修正で正式合意した。政府・与党が見送った基礎年金(国民年金)の底上げ策について、立民の要求を受け入れ、将来的な実施を付則に明記した。野党第1党との合意により、6月22日に会期末となる今国会で修正案が成立する見通しだ。
全ての国民が受け取る基礎年金の給付水準は、現行制度のままでは約30年後に3割低下すると試算されている。このため基礎年金を底上げし、就職氷河期世代が将来、低年金に陥るのを防ぐのが、今回の改革の柱だった。
底上げの方法として、政府は当初、財政が堅調な厚生年金の積立金を活用する内容を法案に盛り込んでいた。しかし会社員などが入る厚生年金の受給額が一時期に減るため、参院選を控え、会社員らの反発を懸念した自民党内の慎重論が根強く、削除された。
現在、自営業者らが加入する国民年金の支給額は月6万9千円程度にとどまる。物価高で家計が苦しく、さらに給付水準の低下が避けられない状況にある。改革は待ったなしだ。3党が底上げすることに合意したのは評価できる。
修正案では2029年に行う財政検証を踏まえ、将来の給付水準低下が見込まれる場合、政府が底上げを行うと規定した。ただ、底上げの実施判断を先送りしたのは理解に苦しむ。
基礎年金の財源の半分は国費で賄われており、底上げすれば年間で2兆円超の追加負担が見込まれる。こうした状況で、修正案に国費の財源確保策を示さなかったのも無責任との批判は免れまい。
修正案では、厚生年金の積立金を活用する案が復活した。積立金の活用は、年金制度の根幹に関わる重大な変更になる。また国費分の財源確保策として増税の可能性が指摘されている。国民民主党や日本維新の会などは修正案に反対している。目先の選挙を見据えた国民受けする中身ではなく、与野党ともに、将来に責任を持って財源などの具体策を示してほしい。
法案にはパート労働者らの厚生年金への加入拡大、働く高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」の見直し、高所得者の厚生年金保険料の引き上げなど、痛みが伴う内容が盛り込まれている。国民の理解がなければ年金改革は進められない。国会はその理解を得るための場である。各党は正々堂々と国会で議論すべきだ。