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【6月1日付社説】除染土の基本方針/取り組みの前進を形で示せ

2025/06/01 07:51

 政府が地元に対して約束した、東京電力福島第1原発事故後の除染で出た土壌の県外最終処分の期限まで20年を切っている。必要なのは「省庁一丸」といったかけ声ではなく、取り組みの前進を形で示すことだ。

 政府が、除染土の県外処分や再生利用の促進に向けた基本方針を、首相を除く全閣僚の会議で決定した。県外での再生利用が実現していないのを踏まえ、首相官邸で一定規模の造成を伴う利用を検討することなどを盛り込んだ。政府が積極的に土壌を利用することで、県外処分に対する理解の醸成、県外再生利用の実現につなげるとの狙いは分かる。

 ただ、安全が確認された土壌を使った鉢植えが省庁や政党本部に4年前から既に設置されている。新たに官邸での利用を図るというだけでは新味に欠ける。これで理解醸成につながるのかは疑問だ。

 基本方針の軸は、再生利用の促進と、安全性などについての理解醸成、最終処分の候補地選定の具体化に向けた検討を進めることの3点だ。これらは中間貯蔵施設への土壌搬入当初からの課題で、政府や関係省庁が繰り返し議論してきたテーマではなかったか。

 搬入開始から既に10年を経ている。言わずもがなの原則を改めて基本方針に位置付け、取り組み加速を図ろうというのは、遅きに失していると言わざるを得ない。

 2045年までに処分完了に向けては、県外の再生利用をできる限り早く一件でも実現させ、実績を積み上げることと、処分地選定の道筋を一刻も早く定めることに尽きる。方針に掲げた取り組みをどう具体化させるかが問われる。

 方針の実行に向けて夏ごろに示す工程表は当初、処分期限の45年までの動きを盛り込むとしていた。しかし方針決定の段階になって「政府内の調整」(環境省)により、当面は今後5年程度の動きを示す限定的なものに後退させた。再生利用推進や理解醸成に重きを置いたものになるため、処分地選定の動きは詳しく盛り込まれない恐れがある。

 理解醸成と、最終処分の量を減らすための再生利用が進まぬ限り、処分地選定の具体化が難しいのは理解できる。ただ、政府が選定を先延ばしにしているように見えることが、県外処分の約束の不履行や先送りにつながるのではとの不安を地元に与えている。それを政府は肝に銘じるべきだ。

 政府には理解醸成などの進展を待つことなく、並行して最終処分に向けた手続きの具体化を進めることを強く求めたい。

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