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【6月7日付社説】東電の株主訴訟/判決は事故の免責ではない

2025/06/07 08:03

 東京電力福島第1原発事故を巡り、東電株主が旧経営陣に損害を会社へ賠償するよう求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は株主側の賠償請求を退けた。一審では旧経営陣が津波対策を怠ったとして計13兆円超の支払いを命じていたが、正反対の司法判断となった。

 控訴審では、旧経営陣が地震の予測をまとめた政府の「長期評価」に基づいて巨大津波を予見できたか、対策を取れば事故を避けられたかが争点だった。判決では、長期評価は原発の運転を停止して津波対策を行う根拠として十分でないとし、旧経営陣が当時の情報から津波の危険性に切迫感を抱かなかったのはやむを得ず、「予見可能性は認められない」とした。

 今回の判決で、旧経営陣個人の民事上の責任は認定されなかった。個人の責任を否定するのは、旧経営陣を巡る刑事裁判の最高裁判決に続くものだ。ただ、東電の事業者としての責任は、これまでの民事訴訟などで認められている。東電は、判決を事故に対する免責と捉えてはならない。

 判決には、東電が長期評価に基づいた試算を行い、2008年3月には原発の主要施設に迫るような津波が来る可能性を把握していたと記す。対策が検討されたが、東電が長期評価の信頼性について土木学会に検討を依頼することとしたため、実際には行われなかった。この判断について、判決は「不合理ではない」とした。

 東電が試算を出した段階で自主的に公表しなかったことについては、法令などに基いた行動として問題ないとの判断だろう。ただ、公表していれば、違った対応が取られていたはずだ。安全を最優先にしなければならない電力会社としてどのように対処すべきだったのか、今後の最高裁の審理とは別に議論を尽くす必要がある。

 政府は、原子力規制委員会が新規制基準を策定したことなどを受け、原発をエネルギー政策の柱に位置付け直した。各地で規制基準を満たした原発の再稼働が進められたほか、最近では運転開始から60年を超える原発の稼働を可能にする法律が全面施行された。

 判決は当時の東電経営陣の責任は否定したが、今後の電力会社の取締役には、過酷事故を防ぐために「一層重い責任を課す方向で検討すべきだ」と指摘する。最高裁の司法判断では、原子力政策を推進してきた国の責任は認められなかった。電力会社の経営陣も責任が問われない状況では、安全を担保することは難しい。国と電力会社の経営陣の責任を法的に明確にすることが重要だ。

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