客観性の高い科学的なデータが安全性を証明している。中国政府は一刻も早く、全ての水産物の輸入を解禁すべきだ。
日中両政府が日本産水産物の輸入再開に向けた手続きを開始することで合意した。規制が緩和されれば、2023年8月の東京電力福島第1原発処理水の海洋放出をきっかけに中国が水産物輸入を全面停止して以降初めてとなる。
昨年9月、日中両政府は輸入再開の方針で合意したが、安全性の確保などについて実務者レベルの交渉が長引いていた。ようやく禁輸解除の手続きが具体的に進んだ格好だ。米中の貿易摩擦が激しくなる中、中国はアジア諸国との関係強化に注力している。日本との合意もこれまでの強硬姿勢を改め、歩み寄ったものとみられる。
中国政府は現在も処理水を「核汚染水」と呼ぶなど、海洋放出に強く反対してきた。しかし、これまでの海域モニタリングなどで人や環境に影響がないことが実証されている。中国は国際原子力機関(IAEA)の枠組みの中で、海水や処理水の試料採取などに参加しており、中国側の分析でも異常は確認されていない。不可解な輸入停止を改めるのは当然だ。
輸入再開は37道府県にとどまり、本県や茨城などの10都県は除外される見通しだ。この10都県は11年3月の原発事故以降、食品の輸入も停止したままだ。どのような理由で除外しているのか、中国政府には科学的なデータに基づく説明が求められる。
輸出には、中国側が日本の輸出事業者を登録し、食品の製造加工施設での放射性物質検査に加え、産地や衛生に関する証明書が必要になるという。このため輸出再開まで少なくとも数カ月程度はかかるとみられている。
輸出停止前の22年の水産物輸出額は、中国が871億円と国・地域別の相手国で最大で、日本産のマグロやホタテなどは品質が高く評価されていた。中国国内でも輸入再開を望む声が上がっている。中国政府は、さらに安全確認で過度な手続きを要求するなどして再開を引き延ばししてはならない。
これまで中国側は、輸入規制を外交カードとして揺さぶりをかけてきた。引き続き、除外された10都県の扱いを外交カードとして利用するのは間違いない。
日本政府はIAEAなどと連携し、科学的なデータに基づいて安全性を訴えてきたことで、国際社会の理解を広げてきた。今後も同様の方針で安全性を訴え、中国に輸入規制の完全撤廃を迫るとともに、風評を払拭していくべきだ。