核兵器の脅威を排除するとの理由で、攻撃を正当化することはできない。危険極まりない愚行は直ちにやめるべきだ。
イスラエル軍がイラン各地の核関連施設など数十カ所の軍事施設を空爆した。首都テヘランでは子どもや女性も死傷したという。
事態が深刻なのはイスラエルが核関連施設を標的としたことだ。国際原子力機関(IAEA)によると、イランは核兵器への転用が可能な高濃縮ウランの貯蔵量を急速に増やしており、濃縮度を高めれば核弾頭を数発製造することが可能とみられている。
イスラエルは、イランが核兵器を保有すれば重大な脅威になるとして、核関連施設への攻撃の必要性を主張してきた。しかし、核関連施設への攻撃は、人類の生命や地球環境を脅かす行為だ。断じて許されない。
イランは報復を宣言し、無人機による反撃などを始めた。報復の連鎖は、中東の危機拡大に直結する。双方に強い自制を求めたい。
今年4月からのイランと米国の核開発問題を巡る協議が難航していることが、イスラエルによる武力での脅威排除につながったとされる。ウラン濃縮の継続を認めない米国に対し、イランは継続と経済制裁の解除を主張するなど、対立が深まっていた。
イランと米英仏独中ロは2015年、イランが核開発を制限する代わりに、欧米が制裁を解除するイラン核合意を結んだ。しかし、トランプ米大統領が第1次政権の18年に合意を離脱し、制裁を再発動したことで、イランは核開発を拡大してきた経緯がある。
米国にはイランの核開発を制止できず、核施設への攻撃という最悪の事態を招いた責任の一端があるといえる。イスラエルの後ろ盾でもある米国は、強く攻撃停止を求めてほしい。
23年10月のパレスチナ自治区ガザでの戦闘以降、強硬姿勢を崩さないイスラエルのネタニヤフ政権には国際社会の批判が強まっている。英国やカナダなど5カ国は政権を支える極右政党の党首を務める一部閣僚に渡航禁止の制裁などを科し、停戦圧力を強めている。
ガザはすでに壊滅状態にあり、非人道的な行為が目に余る。国際社会が協調し、より厳しい姿勢でイスラエルの暴走を阻止しなければならない。
日本は原油の9割以上を中東に依存しており、中東情勢の悪化は経済活動に深刻な影響を及ぼしかねない。イスラエル、イランと良好な関係にある日本は、事態の収拾に全力を挙げる必要がある。