国と県が、福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の中長期的戦略(青写真)を改定した。ロボットなどの新産業の集積をさらに進め、被災地の持続的な経済発展を実現していくことが求められる。
イノベ構想は、2030年ごろをめどに、浜通りを中心とした15市町村で全国水準並みの域内総生産(GDP)の成長を遂げることを目標とする。22年の15市町村のGDPは2・34兆円で、震災前の10年と比較すると3・9%の伸びとなっている。ただ、復興需要に支えられた建設業の生産額を除けば震災前から4%のマイナスだ。
全国の同期間のGDPは12・4%の伸びで、これまでの取り組みを続けるだけでは追いつかない。19年に戦略を策定した際、地域全体で研究や実証を進める方針を掲げていたが、その姿はまだ見えない。国と県は、戦略改定に合わせて、浜通りの企業が新たな技術や製品の開発を加速できるよう、他地域にない大胆な規制緩和を実施することが重要だ。
構想は国家プロジェクトに位置づけられ、補助金などを活用した積極的な企業誘致が行われた。ロボットやドローンの分野では、国内有数の実証拠点「福島ロボットテストフィールド」を設けたこともあり、約80社が新規進出した。その結果、南相馬市は成長が見込まれる宇宙関連ベンチャーの拠点として注目されるようになった。
新たな中長期的戦略では、産業集積の効果を広域に波及させ「地域の稼ぎ」をつくりだすことを打ち出した。だが、目標まで5年の段階でこの言葉が出てくるのは、進出企業と地元企業の連携が不十分であることの証しとみるべきだ。国と県は、進出企業が開発した製品を地元企業が量産するような体制の構築に向け、両者のマッチングを重点的に行う必要がある。
住民の避難を経験した自治体では、社会経済活動が一度ゼロになったため、買い物環境や公共交通などの分野に課題が残る。このため、国と県は今回の中長期的戦略で、地域課題の解決に取り組む企業の育成を重視する方針を盛り込んだ。これらの企業が地域おこしや防犯、景観維持など公共サービスの一部を担うことを期待する。
持続的な経済成長には、人口を増やし、さまざまな分野にお金が回るようにしていくことが欠かせない。民間の力を活用し、住みよい環境を整える考えを採用したことは評価できる。地元に貢献する意思を持った企業を補助金の認定で優遇するなどの対策を講じ、地域の担い手を増やしてほしい。