会社を引き継いだ後、長く勤めていた社員は去っていきました。重ねて、若い世代も3年以内に辞めていきました。当時の社内には、どんよりとした雰囲気が漂っていました。
若手が退職する原因を探ると、教育体制の不備が浮かび上がりました。若手への教育は、OJT(職場内訓練)。主に中堅の先輩社員が、実際の業務を通じて知識やスキルを教えていました。以前だと、時間外労働の規制も今ほど厳しくなかったので、若手に教える時間が十分にありましたが、近年は業務時間と工期が厳しく決められているので、先輩社員は工事を工期内に終わらせなければなりません。丁寧に教える余裕がありません。
そうすると、若手は見てまねようとしても、実務で行動に移す機会が多くありません。実際の作業で誤りがあると、指導役の先輩社員が強い言葉で注意します。小さなミスでも重大な事故につながりかねないからです。失敗が許されない環境下と、指導する側の難しさ。重圧を感じた若手は精神的に追い込まれ、退職を選んでいきました。
早期離職は会社にとって損失ですが、それよりも、仲間が次々と離れてしまうことが、すごく悲しかった。若手が失敗を恐れるのなら、「安心して失敗できる環境」をつくって失敗を経験し、修正の仕方まで学ばせたい。2021年、会社敷地内に研修棟「大地」が完成しました。翌年の春に本格運用してみると、驚くほどの効果を発揮しました。
入社後の3カ月間、実地研修をみっちりと行うことで、若手が技術力を早期に身に付けることができて、自信を持てるようになったのです。この研修棟では、中堅の先輩社員が若手を指導します。教える中で、良好な人間関係を築くことができて、社内の雰囲気も良くなりました。新卒の定着率0%だった会社は、研修棟完成後は定着率70%までに向上。人材育成の投資は、回収に時間がかかります。会社の未来のために、思い切りました。