退陣を表明したとはいえ、これから総裁選に入り、政治空白はさらに長引く。遅すぎた決断がもたらす国民生活への影響は計り知れない。その責任は極めて重い。
自民党総裁の石破茂首相が退陣を表明した。参院選で大敗し、衆参両院で少数与党に陥ったにもかかわらず、選挙での民意に背き続投の意思を示してきた。最終的には「石破降ろし」に屈する形になった。首相は「党内に決定的な分断を生みかねないと考え、身を引く苦渋の決断をした」と語った。
本来は民意を尊重し、参院選直後に退陣すべきだった。懸案の日米関税交渉に区切りをつけたものの、物価高対策などの喫緊の課題は野党との協議が滞り、政権は機能不全に陥っている。その現実を正面から受け止めようとせず、退陣が党内の分裂回避という内向きの理由であるのならば、国民軽視との批判は免れない。
石破首相は総裁選で訴えた日米地位協定改定や選択制夫婦別姓の導入などを封印し、肝いりの地方創生でも訴求力のある政策を示すことはなかった。何より国民の不信を招いた「政治とカネ」の問題では1年前の就任時点で「令和の政治改革を断行する」と言明していたが、野党が求める企業・団体献金の見直しに応じなかった。
首相は会見で「多くの方に配意しながら融和に努め、誠心誠意努めてきたことが結果として『らしさ』を失うことになった」と無念さをにじませた。少数与党の厳しい政権運営であっても、強い指導力を発揮して、改革を断行しなかったのは首相自身である。
政治改革にあらがい、国民の不信を増幅させながら、その責任を転嫁し「石破降ろし」に動いた議員にも猛省を求めたい。顔をすげ替えるだけで局面を打開しようと企てているのであれば、党はさらに窮地に追い込まれるだろう。
「解党的な出直しを図る」という言葉にうそ偽りなく、党内の病巣を取り除かなければ、国民の不信は拭えない。総裁選に立候補する議員は、その具体的な方法を明確に示し、覚悟を語るべきだ。
総裁が交代しても、自公は衆参で過半数を割ったままだ。物価高や農業改革、外交問題などの国内外の山積する課題を解決していくため、政策を立案するには野党を含めた合意形成が欠かせない。
参院選から1カ月半も経過している。自民党の内輪もめや国政の停滞を批判しているだけでは、野党は国民政党としての責任を全うできない。与党や野党間での政策協議の在り方、連立の枠組みなどについて真剣に議論すべきだ。