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遺族、無念拭えず「危険運転、厳罰化を」 郡山受験生死亡事故

2025/09/18 08:55

判決公判が開かれた地裁郡山支部の法廷=17日(代表撮影)

 「飲酒をしてスピードを出したまま4カ所も信号無視をして娘の命を奪ったのにどうしてこんなに刑が軽いのでしょうか」―。大阪府から受験で訪れていた女性=当時(19)=が1月、郡山市駅前で酒気帯び運転の車にはねられ死亡した事件の裁判員裁判。地裁郡山支部は17日の判決で、争点だった自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪の成立を認め、被告に懲役12年を言い渡した。遺族は危険運転致死傷罪の認定を評価する一方、量刑に無念さをあらわにした。

 判決公判に臨んだのは、危険運転致死傷と酒気帯び運転の罪に問われた同市昭和1丁目、無職男(35)。男は上下黒のスーツで入廷すると、下山洋司裁判長が判決理由を読み上げる間も表情を変えることなく、じっと前を見続けた。閉廷と同時に背筋を伸ばし頭を下げ、法廷を後にした。

 遺族は、間仕切りで仕切られた傍聴席で判決を聞いた。閉廷後、公判で意見陳述した母親が代理人弁護士を通じてコメントした。判決に関し「家族の悲しみや、被告人を許せない気持ちを十分くんでくださったことは良かったですが、それにもかかわらず、懲役12年というのはあまりに刑が軽い」と心境を明らかにした。

 女性は歯科医の夢をかなえようと予備校で勉強に打ち込み、郡山市で大学受験を迎えた朝に突然命を失った。母親は他の同種事件を踏まえた判決に「家族にとっては大切な娘の命が奪われたのですから到底納得できない」と不満を示した。

 悲惨な事件を繰り返しても後を絶たない危険運転に切実な思いを訴えた。「危険運転の罪についてはさらなる厳罰化を強く望むとともに、これ以上私たちのような悲しい思いをする家族が出ないことを切に願う」

 「飲酒で意識低下」否定、東京都立大星教授見解

 今回の判決について、交通犯罪に詳しい東京都立大の星周一郎教授は「蛇行運転や車線逸脱がなかった点が酒気を帯びていても正常な判断で運転できたことの根拠となった。これにより(被告に)赤信号を無視する意思があったことが認定され、危険運転致死傷罪が成立した」と解説した。

 星教授によると、争点だった「赤信号を殊更に無視」とは、信号による制御におよそ従う意思がないことを指す。赤信号だと明確に認識できていなくても、信号を無視する意思が認められれば危険運転致死傷罪は成立するという。現行法で同罪は「アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難」「制御困難な高速度」など八つの類型のうち、一つに該当すると成立する。

 星教授は「アルコールの影響が危険運転を否定する要素に働きかねなかった」とした上で「客観的証拠の積み上げで、アルコールによる意識の低下という疑いを覆した」と評価した。

 「これだけの立証をしないと認められない、危険運転致死傷罪での処罰のハードルの高さを示した」と指摘。「危険運転致死傷罪や交通違反の処罰の在り方を根本的に考え直さないといけない」と提言する。

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