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【9月25日付社説】阿武隈川の改修/気候変動に即した整備急げ

2025/09/25 08:05

 国土交通省が、将来の気候変動に対応した阿武隈川の河川整備計画の見直しを進めている。阿武隈川は南から北に流れていることから水の流下と台風の経路が重なる傾向があり、洪水による被害が繰り返されてきた。国には、降水量の増加などに備えた十分な対策を講じていくことが求められる。

 阿武隈川は、2019年の東日本台風で観測史上最高水位を記録する洪水となり、甚大な被害が発生した。県内では、同規模の台風に耐えることができるよう、洪水時に水をためる遊水地の整備と河道掘削を組み合わせた「緊急治水対策プロジェクト」が行われてきた。今回の見直しでは、遊水地の整備完了が当初予定の28年度から5年遅れる見通しを示した。

 遊水地の整備は鏡石、矢吹、玉川の3町村の計350ヘクタールが対象で、地権者の約半数と用地契約が終わっている。工期の延長は、当初の計画よりも整備範囲が広がったことなどが原因だ。対象の区域は現在も洪水時の浸水リスクがあり、整備が遅れれば下流の治水対策にも影響する。国は安全性を確保しながら、可能な限り工事の完成を急ぐ必要がある。

 緊急治水対策プロジェクトに基づいた阿武隈川上流の河道の掘削は、約230万立方メートルの実施を計画してきた。国交省によれば、今年3月末の時点で計画の約8割に相当する170万立方メートル分の工事が終了している。今後は、須賀川地区での河道掘削に取り組むことになっている。

 整備は比較的順調に進んでいるものの、遊水地の完成が遅れている現状を踏まえれば、河道掘削を通じてあふれそうな水を河川内で受け止め、安全に流せるようにすることが必要になる。堤防のかさ上げや工事の妨げになるような橋の架け替えなども含め、残りの区間の整備を進めてほしい。

 河川整備計画の最終的な目標は、気温上昇による降水量などの増加を前提に、30年に一度の豪雨が降った場合でも対応できるようにすることだ。現行の計画では、本県の基準地点で毎秒4600立方メートルの水を流すことができる河川改修などを目指してきたが、計画の見直しで毎秒5200立方メートルまで耐えられるようにする。

 想定する豪雨では、対策を講じない場合、流域全体で約4万5千世帯が浸水し、約11万2千人に被害が出ることが見込まれる。気候変動に応じた防災力の強化は、地域社会を守る上で避けることができない取り組みだ。国は着実な整備に向け、事業費を継続的に確保していくことが重要だ。

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