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【10月2日付社説】復興再生土/どう利用拡大につなげるか

2025/10/02 08:10

 環境省が、東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た土壌のうち、放射性物質濃度が比較的低く、再生利用に使う土の呼称を「復興再生土」に決めた。復興再生土は中間貯蔵施設に保管している放射性セシウムの濃度が1キロ当たり8千ベクレル以下で、再生利用に使う土を指す。

 新たな呼び方を設けることで、これまでひとまとめに除染土としていたものを、最終処分するものとそうでないものに分けた形だ。

 飯舘村長泥地区で実施されている復興再生土の活用に向けた花栽培の実証実験では、農場整備の前後で放射線量の上昇が見られないことが確認されている。同省はこの結果などから、土木工事などで使用しても、周囲をほかの土で覆うことで放射線量が測定できないほど小さくなるとしている。

 再生利用は県外で最終処分する土の量を最低限に抑え、処分地の面積などを検討する上で不可欠な取り組みだ。処分場の整備にかかる期間などを踏まえれば、残された時間は少ない。

 再生利用可能な土にまで、放射性物質のイメージが強い「除染」を冠していたことは、説明を聞く人などが安全性に疑念を持つ要因となっていた。新呼称となっても、土そのものの性質が変わることはない。復興再生土の説明を通じ安全性に対する不安を取り除き、再生利用の取り組みを一刻も早く軌道にのせることが大切だ。

 政府は再生利用促進を目的に、月内に中央省庁9カ所で、花壇などに計79立方メートルの土を使う方針を示している。ただ、中間貯蔵施設にある8千ベクレル以下の土は約1千万立方メートルと膨大で、省庁の利用をいかに増やそうが総量を減らす効果はほとんどないに等しい。今後の拡大に向けた安全性のアピール力にも欠ける。

 再生利用を拡大するには、多量の土を使う大規模な公共事業や、民間での活用を増やすことに尽きる。同省が再生利用の工程表に盛り込んでいるように、企業による土利用の先行事例をつくっていくことが重要だ。

 原発が国策として推進されてきたことを踏まえれば、東電や電力各社は再生利用に率先して取り組み、先行事例としていくべきだ。電力会社ですら受け入れないものを利用してほしいというのでは、どんな名称の土であっても地域や住民の理解は得られまい。

 政府は原発敷地内の安全性の向上を図る工事などでの活用を実現させることで、原発外の他業種の工事などでの利用につなげる足掛かりとすることを検討すべきだ。

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