東日本大震災と原発事故を契機に、避難所の生活環境は大きく見直されてきました。その中で深刻な課題となったのがトイレです。
国際的な人道支援の基準である「スフィア基準」では、避難所のトイレは20人に1基を目安とし、男女別や高齢者・障害者に配慮した設置を求めています。これに対して、日本の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(内閣府、2024年改定版)では、発災直後は50人に1基、避難が長期化した場合は20人に1基とされています。
しかし震災当時、多くの避難所ではこの目安すら満たせず、数百人に数基しかないケースもありました。汚物の処理が追いつかず悪臭が漂い、感染症や体調不良を訴える人が相次いだと報告されています。
不衛生さだけが問題ではありません。使えないトイレを避けて水分を控えた結果、脱水やエコノミークラス症候群を招いた例がありました。高血圧や糖尿病など持病を抱える人にとっては体調悪化の直接要因ともなりました。夜間に暗い仮設トイレに行くことを恐れて排泄を我慢する高齢者も多く、心理的ストレスや転倒事故につながったと指摘されています。
トイレは「衛生」だけでなく「健康」「安全」「尊厳」に直結する生活の根幹です。その不足や不備が災害関連死にまでつながりかねないことは、私たちが忘れてはならない教訓となりました。
