• X
  • facebook
  • line

【11月26日付社説】特撮センター5周年/映像文化で人を結ぶ施設に

2025/11/26 08:05

 須賀川市の「須賀川特撮アーカイブセンター」が、開館5周年となった。特撮は、ミニチュアや撮影技法などを駆使し現実ではない光景を再現する映像技術で、同市出身の故円谷英二監督が基礎を築いた。5年間の歩みで得られた資料活用の実績や映画関連の人脈などを生かし、さらなる地域振興につなげていくことが重要だ。

 センターは、市が円谷監督の事績や特撮文化を顕彰する施設として2020年に開館した。庵野秀明氏など映画製作の第一人者らでつくるNPO法人「アニメ特撮アーカイブ機構」と連携し、特撮に関する資料の収集や修復、調査研究などに取り組んできた。

 センター開設前は、特撮で使用した器具は破棄されたり、散逸したりすることが懸念されていた。市と機構の連携により、これまでに関係者の手元に残されていた模型や台本など、約1万2千点の保存に至った。収蔵点数は、国内で随一の規模という。市は、館内展示の充実や外部での出張展示なども視野に入れ、世界の映像史に大きな影響を与えた日本の特撮文化の継承に取り組んでもらいたい。

 センターの来場者はこれまでに12万人を超えている。往年の映画などを懐かしむファンだけではなく、特撮に関わった人を軸にまちおこしを計画する全国の自治体からの視察が含まれる。市中心部から離れた立地だが、個人やグループで訪れる外国人も少なくない。

 収蔵する精巧な模型を現役の撮影セットとして貸し出す取り組みなどが功を奏し、市内での特撮映画撮影の誘致に結び付いた事例もある。施設の節目に合わせるように、円谷監督が日本人で初めて、米国の視覚効果協会の殿堂入りを果たした。過去にはウォルト・ディズニーらが名を連ねる栄誉あるものだ。市は、改めて円谷監督の故郷に特撮文化の拠点があることを周知し、インバウンド(訪日客)を含めた交流人口を拡大してほしい。

 センターは、「第二の円谷英二監督」の誕生を目指す人材育成の役割も担っている。22年からは、中高生が映画制作者から撮影などの指導を受ける「特撮塾」を開講してきた。現在は4期生で、塾の経験者の中には、映像関係の学校に進学した人もいる。

 特撮塾に加え、本年度は中学校の総合的学習の時間に、センターの技術を生かした映像づくりが採用された。スマートフォンが普及し、映像制作は情報発信や自己表現の手法として注目が高まっている。市には、映画関係の人材と連携を深め、特撮技法などを活用した地域教育の充実を求めたい。

この記事をSNSで伝える:

  • X
  • facebook
  • line