受診控えなどによる症状の悪化や、負担の急増などを招かぬよう丁寧な検討を求めたい。
風邪薬や胃腸薬などドラッグストアなどで買える市販薬と効能の似た「OTC類似薬」について、政府、与党が公的医療保険の適用の見直し議論を進めている。現在は医師の処方に基づき保険の適用対象となっているが、適用から外すことを含めて検討している。
OTC類似薬には抗アレルギー薬や皮膚保湿剤、湿布薬なども含まれ、種類は多岐にわたる。受診料や調剤料、薬剤費は医療保険でカバーされ、現役世代の自己負担は原則3割、70~74歳は2割、75歳以上なら1割で済む。市販薬より安く済むことから、必要性が低くとも処方のために受診する患者が少なくない。
保険適用の見直しは、医療費削減を掲げる日本維新の会が主張し、自民、公明両党との協議で6月に早期実現を目指す方針で合意していた。政府は経済財政運営の指針「骨太方針」に、年末までに見直しを検討し、早ければ来年度から実施すると明記した。
高齢者の増加、医療の高額化などで医療費は年間約48兆円に膨らんでいる。医療保険財政は逼迫(ひっぱく)しており、医療費削減への取り組みは避けられない。人口減少に歯止めがかからないなか、現役世代の保険料負担を抑制し、持続可能な制度を構築することが重要だ。
慢性疾患で薬が欠かせない患者らは、適用見直しで大幅な負担増になる恐れがある。このため、アレルギー患者の団体などは「治療継続が困難になる」と反対している。日本医師会は、受診や治療の遅れによる重症化、市販薬の不適切な服用などによる健康悪化などへの懸念を示している。
厚生労働省は18歳以下の子どもや、OTC類似薬を長期間必要とする患者には追加負担を求めない配慮措置などを検討する構えだ。低所得者の負担増も回避すべきだろう。患者の実情に即し、追加負担の水準や、保険適用外となる対象品目を選定してもらいたい。
政府は昨年、医療費が高くなった際の患者の自己負担を一定額に抑える「高額療養費制度」の上限額の引き上げを決定したが、がんや難病の患者らの反発を受け、撤回に追い込まれた。
医療費の削減が急務とはいえ、患者らの理解が得られないまま、強引に見直しを進めれば同じような事態を招きかねない。国民の命と健康を守るため、医療の現場や患者などの実態、意見を踏まえ、多くの人の理解と協力が得られるように努める必要がある。
