新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行してから1年が経過した。新たな感染症の脅威が現出した時にコロナ禍のような混乱を低減できるかどうかは、コロナへの対応の的確な検証に懸かっている。
コロナにより年数万人が亡くなるような切迫した状況は脱しているものの、季節性インフルエンザでは、コロナ流行前の2019年に3500人超が死亡している。5類は感染を警戒せずともよいというレベルではない。引き続き、感染を防ぐためには必要に応じたマスク着用などの自衛が大切だ。
コロナ禍が収束したなかで、今すぐ進めるべきは、再び強力な感染症が発生したときの対応を円滑なものとするための仕組みの構築だ。そのためには、コロナ禍での対応のどういう部分が機能して、改めるべき点はどこにあるのかを明らかにすることに尽きる。
最も重要なのは、感染症が流行した際の医療提供体制だ。コロナ禍では医療機関や医療従事者の負担が極めて大きくなった。必要な病床が確保できない恐れが生じたり、看護師を含めたスタッフが足りなくなったりしたことは記憶に新しい。医療機関に加えて、保健所などへの影響も大きかった。
ワクチンは、開発と確保の両面で他国に遅れた。接種は市町村に任されたため、人員不足などにより滞った市町村があった。ワクチン確保や接種の迅速化は、感染症が落ち着いている今こそ考えなければならない課題だ。
緊急事態宣言や外出自粛の要請などの行動抑制と、社会経済活動停滞の影響を緩和する支援策については常に混乱がつきまとった。投入した予算の効果検証を含め、今後を見据えた議論が必要だ。
政府は「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改定案をまとめ、近く閣議決定する方針だ。また、昨年発足の感染症危機管理統括庁に加え、国立健康危機管理研究機構を設立する。ただ、改定案を見る限り、項目ごとの対策強化をうたう部分が目立ち、実効性には疑問符が付く。5類移行から1年が経過しても、対応が進んでいるとは言い難い。
流行確認当初の政府の対応は、マスクの全戸配布をはじめお粗末な点が多かった。戦後初めて経験する世界的な感染症の流行だったため、一定程度の混乱は避けられなかった側面はあるだろう。しかし、次に感染症が生じた際に同じような混乱を繰り返すのであれば、それは政府の準備不足や失敗であることを肝に銘じるべきだ。