皆さんに少し考えていただきたい。文字、音声、映像の三つを、脳に入ってくる情報量の多さの順に並べると、どうなるだろう。
言語脳科学が専門の酒井邦嘉東京大大学院教授によると、映像、音声、文字の順になる。ただ音声は聞き逃すと内容を理解する機会を失い、映像は一方的に大量の情報が流れ込み、意味の解釈などが二の次になってしまいがちだ。
一方、文字は伝えられる内容に限りがある半面、人間の脳が情報の足りない分を想像力で補おうとする。想像力を働かせて行間を読み解くことで、書き手の意図を考える力などが育つ。酒井氏は、新聞の教育効果は高いという。
福島民友新聞社主催の講演会で酒井氏が警鐘を鳴らしたのは、人工知能(AI)の台頭や、タブレット端末などを使ったデジタル教育の浸透だ。自ら考えることなくAIなどに頼れば想像力や文章力が失われ、学力が低下する。
今月はNIE(Newspaper in Education=教育に新聞を)月間だ。デジタルの活用が進む時代だからこそ、学校と家庭は、子どもたちが新聞を読む機会をつくる必要がある。
酒井氏によると、日本語に限らず文章には構造的な曖昧さがある。講演会で例示された「みにくいアヒルの子」の場合、アヒルの子がみにくい、あるいはみにくいアヒルが産んだ子ども―の二つの解釈が成り立つ。どちらも間違いではないが、後者ではアンデルセンの物語とは異なるものとなる。
本来ならば文章を読み、間違ったら修正することを繰り返して解釈の仕方を覚えるのだが、活字離れが叫ばれて久しい。情報量が極端に少ない交流サイト(SNS)ではメッセージに込められた意図を十分読み解かぬまま、短絡的なやりとりが交わされるため、トラブルに陥りやすくなる。
新聞には記事だけでなく、専門家の解説や小説などが掲載されている。子どもたちは、さまざまな文章に触れ、言葉の使い方や解釈の奥深さを学んでほしい。
京都市で今夏開かれたNIE全国大会では、対話がキーワードの一つになった。パネル討論で京都教育大付桃山中の神崎友子教諭は「どんなにAIやロボットが発達しても、他者との共生が欠かせない。対話によって自分の考えが明確化され、問題を多角的に捉えられるようになる」と語った。
自分の考えを話すことは、記憶力や思考力を駆使して文章を創る行為だ。子どもたちは、創造力を養うための出発点である疑問や課題を新聞から見つけてほしい。