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【7月13日付編集日記】クワとクマ

07/13 07:45

 わせ種のモモの出荷が始まった。今年は糖度が高く質、量とも良い出来だという。養蚕業を支えた桑畑が至る所に広がっていたかつての風景と、果樹畑を重ねてみる。思い出すのは桑の実の味覚。モモの濃厚な甘さとは違い、甘みや酸味が控えめだった

 ▼学校からの帰り道に、舌や口の周りが濃紫色に染まるまで食べた。不思議と大人に怒られた記憶はない。必要なのはカイコに食べさせる葉で、クワゴと呼んでいた実は、さほど顧みられなかったのかもしれない

 ▼クマにとってもごちそうなのだろう。1カ月ほど前の本紙に農作業をしていた人が、桑の実を食べているクマを目撃し警察署に通報した記事が載った。こうなると、気にかけないわけにはいかない

 ▼クマの餌になる木の実が凶作だと、出没が増える傾向にある。県の調査によると、今年は比較的、豊作になると予想されている。ただ、一線を越えクマが集落を餌場と認識してしまうと、山に帰すのは難しくなるというから安心はできない

 ▼慣れ親しんだ風景はいずれ変化していき、そこに生きる人と自然の関係も変わっていく。追ったり追われたりすることなく、互いの存在を気にかけなくてもよかった頃には戻れないものか。

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