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【環境考察/農業新時代】果樹の剪定枝炭化、炭素貯留へ農地に散布

09/02 09:50

炭化器を使い、果樹の剪定枝を有効活用する伊藤さん。肥料などと一緒に畑にまいたりしている=6月、福島市

 廃棄される果樹の剪定(せんてい)枝を有効に活用しようとする動きが広がりつつある。枝を炭化し、農地に散布などすることで二酸化炭素(CO2)の発生を抑制できるとされ、地球温暖化を防ぐ効果が期待されている。

 土壌改良の効果も

 福島市でリンゴやサクランボなどを育てる伊桃園代表の伊藤由英(40)は数年前から不要な果樹の枝を処分する際、ステンレス製ですり鉢状の「炭化器」を使うようにしている。炭化器内で燃やされた枝は炭化され、それを肥料などと一緒に畑にまいたりする。

 「煙が出にくく、環境にもプラスになるといわれているので使うようにしている」と伊藤。その上で「環境が変わると農地を後世に残していくことが難しくなる。環境問題を身近なものとして考え、できることを一つずつやっていきたい」と強調する。

 農林水産省などによると、「バイオ炭」を農地で散布などすると、炭素の一部が土壌にとどまるという。光合成によって大気中から植物に取り込まれたCO2は、土壌内で微生物の活動によって分解・放出されるが、炭化して土壌に施用することで炭素を土壌に閉じ込め(炭素貯留)、大気中への放出を減らすことが可能になる。炭には透水性や通気性の改善など、土壌を改良する効果もあるとされる。取り組みは「J―クレジット」制度の対象になっている。

 土壌の炭素貯留は「4パーミル・イニシアチブ」として、世界中で取り組みが進む。農業分野での脱炭素の試みであり、国内では山梨県が先駆け的な存在だ。

 福島市が補助事業

 県内では、剪定枝の有効活用を探るため、福島市が2021年に山梨県と長野市を視察。剪定枝のマッチング事業や炭化器の購入補助事業を始めた。きっかけは一部で剪定した果樹の枝が野焼きされていたことだ。市によると、一冬に出る剪定枝は少なくとも約800トン以上。野焼きは禁止されている上、市民から「窓が開けられない」などの苦情が寄せられていた。

 炭化器購入補助申請は23年度末で167件に上り、その後も増えている。市農業振興課は「苦情数は少なくなっている」として温室効果ガスの削減と土壌改良だけでなく、野焼き抑制も目指している。

 炭素貯留を否定的にみる研究者がいるのも事実だ。だが、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県)で緩和技術体系化グループ長を務め、土壌の炭素貯留やメタンガス削減などを研究する須藤重人(59)は「営農効果やコスト面での課題は残るものの、炭素をためる効果は確実にある」として取り組むよう促す。(文中敬称略)

   ◇

 4パーミル・イニシアチブ 世界の土壌表層の炭素量を年間4パーミル(0.4%相当)増加させれば、人間の経済活動などによって増加する大気中の二酸化炭素を実質ゼロにできるという考え。2015年の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でフランス政府が主導して提唱し、日本では果樹栽培が盛んな山梨県がいち早く取り組みを始めた。

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